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オーブンのまわり、コンロのまわり、流しのまわりに臣人が分身の術でも使っているように何人も見えるのは気のせいだろうか?
ちょっとバーンは頭をかかえた。
気が付くと、目の前に紅茶を入れたカップ&ソーサーと先ほどのケーキが3つ載せられた花柄の皿がコトンっと置かれた。
三角巾をとった割烹着姿の臣人が立っていた。
「さ、食ってみい?」
一瞬、臣人の顔を意外そうに見上げ、沈黙の時間が続いた。
臣人は彼の気持ちが動くまで何も言わずに何もせずに、穏やかに待っていた。
ようやく促されるままにバーンはそのケーキを1つ口へ運んだ。
その試食している顔を臣人はのぞき込んだ。
「…………」
紅茶も一口飲み、さらに次のケーキに手を伸ばした。
「どや??」
「…………」
何らかの感想を期待して臣人は待っているが、当の本人はそんなことお構いなしに味わっていた。
「食ってばかりおらんと何かこう言ってほしいな。まずいとか、お世辞でもいいから『旨い!』とか、ここをこうすればもっとええとかなぁ?」
バーンは臣人を見上げるが、
「…………」
答えは返ってこなかった。
「まあ、それだけおまえが食えたんやから、まあまあのできだとは思うけど。今度の調理実習はこれでいこかと思うとるんや。でな」
その時、調理室のドアをノックする音がした。
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