最後の夜 其の三

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どんな夜でも明けない夜はない。 それは、多くの仲間を失った悲惨な夜であっても例外はなく、現実を理解し呆然としている時間も与えてはくれない。 琢馬は心底疲れ果てていた。あの後、集落の集会所で火災があり、中から二人の遺体が発見されたと連絡を受けたが、悲しむ体力も湧かなかった。 あっという間に夜が明け、眩しい朝陽が病院のバルコニーに新たな1日の始まりを告げていた。 バルコニーで静かに風を感じていた琢馬の目の前に缶コーヒーが現れ、驚いて視線を向けると悠一郎が立っていた。 「どうぞ。」 「ありがとうございます。」 お互いにカポッと缶コーヒーを開けた。 「久遠寺先生は大丈夫ですか?」 「ええ、なんとか一命は。ただ回復までにはまだ時間を要しそうです。…唐牛刑事は?」 「あいつは肩の傷は深かったんですけど、先生の応急措置のお陰で問題無さそうです。今は普通に寝てますよ。」 琢馬は鼻で笑いながら缶コーヒーを一口飲んだ。 「それは良かった。…色々とありがとうございました。あなたたちを巻き込んでしまい、また多くの犠牲を出してしまい、…本当になんと言っていいか。」 悠一郎は缶コーヒーを柵に置くと、琢馬に深く頭を下げた。 「…やめてくださいよ。」 「あなたたちを巻き込んだのは僕です。」 琢馬は悠一郎の言葉に缶コーヒーを置いて、顔を上げた悠一郎をじっと見つめた。 「…先生が、ですか?」 「本当はあの集落と我々が力を合わせればもっと早く出来たのかもしれません。しかし、あの集落は閉鎖的で余所者を…特に清文のことについては全く受け入れてくれませんでした。」 「…太郎さんたちは犯罪を犯してたんです。余所者を受け入れないのは当たり前ですよ。」 「しかし、僕は…甚蔵さんの遺体現場で…」 「ちょっと待ってください。」 琢馬は悠一郎の言葉を遮った。 「今はちょっと…もう少し朝陽を見ていたいんです。その話は後ほどにしてくれませんか。」 「…ふっ、あなたは刑事らしくない刑事ですね。」 「幽霊相手に戦ったんですよ。ただの刑事じゃありませんよ。」 「キドっちぃ!!」 名前を呼ばれて振り返えると、バルコニーの入口の扉から夏目が手を振っていた。 「心咲っちが起きたよん!」 「わかった!後で…」 「行ってあげてください。僕は逃げも隠れもしませんから。」 頬笑む悠一郎に、琢馬は礼を言うと缶コーヒーを飲み干し、心咲の元に向かっていった。 そして、悠一郎も朝陽を眺めながら缶コーヒーを飲み干すと、久遠寺の顔を見にバルコニーを後にした。 ー 完 ー
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