159人が本棚に入れています
本棚に追加
ひたすらに続く道を走り続けた。景色はすっかり両側に林が広がっていた。
…確かに殺人なんて嘘なら嘘に越したことはない。ただ、俺は厄介払いのごとく、普段だったら悪戯だと処理しそうなレベル、そうじゃなくても近くの交番勤務の職員に現場確認をさせる程度のレベルの通報に対し、自分を行かせた根岸課長が許せないだけだ。
琢馬はドアに寄りかかるがごとく頬杖をつきながら窓の外に視線を送り、流れていく木々を眺めながらぶつぶつと文句を垂れていた。心咲は初めて通る道の運転に集中しながらも、琢馬の様子が気になり、ちらちらと窓に写る琢馬の表情を窺っていた。
「なぁ心咲。」
ふいに琢馬に話し掛けられた心咲は驚いてビクッと身体を浮き上がらせた。
「な、何ですか?」
「お前、今何年目だっけ?」
窓の外を眺めながら質問する琢馬。
「えっと、8年目ですかね。第一課に来てからは2年目ですけど。」
「遺体結構見てきた?」
「…遺体ですか。そりゃまぁ、こういう仕事ですんで。」
「一番酷かったやつってどんな?」
「…そうですねぇ、電車に轢かれたご遺体見たときは目を背けてしまったんですけど、なんかもう慣れました。慣れるしかないですもんね。」
心咲は琢馬の質問の意図を理解できないまま、苦笑いしながら答えた。
「ふぅん。俺さ、思うんだけど、殺人事件の遺体って、絶対犯人を示す何かを残してるんだよね。俺は殺されたことねぇからわかんねぇけど、絶対物凄い痛かったり苦しかったりするじゃん?そんな中でも、後で自分を見つけてくれる人たちに自分を殺した犯人を絶対に見つけてもらいたいっていう強い願いがあって、瞬時に犯人を示す何かを残してくれてる…俺はそう思って仕事してんだ。」
突如、真面目な話を語りだした琢馬に、心咲は呆然としてしまい、何も返答出来ずにいた。何も返さない心咲に対し、琢馬は視線を向けてクスリと笑った。
「なぁにポカ~ンとアホみたいな顔してんだよ!」
「…あ、アホみたいって何ですか!アホみたいって!」
「俺だって真面目に仕事してんだよ。…てか、仕事してぇなぁ。」
ふと正面に目を向けると、白鷺病院がずっと近くに見えていた。
「あ、あれじゃないですか?通報にあった十字路って。ほら、看板あるし。」
心咲は一時停止でしっかりと車を止め、左右を確認して十字路を通り過ぎた。
「しかし、病院があるってのに車全然通ってねぇな。」
「白鷺病院はまだ一般人には開館してないですから。確か来月の初めでしたよ。…あれ、左に出てくる道ってどこだろ?」
心咲は後続車もいないことから、スピードをぐっと落としてゆっくり進みながら道を探した。琢馬も身体の向きを窓側に向け、資料に記されていた石碑を探した。
「…ん?あれか?」
琢馬の言葉に、心咲はゆっくり車を端に寄せて停止させた。
最初のコメントを投稿しよう!