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二人は一旦車を降りて、琢馬が見つけた石碑を確認するため歩き始めた。
鬱蒼と草木が生い茂る中に、確かに石碑らしい岩の上の部分だけが確認できた。そして、その石碑の横に車1台分くらいの幅の舗装されていない道もあり、道の先に視線を送ると、ずっとずっと奥まで続いているようだが最後がカーブになっているため、この先に何があるかは確認出来なかった。
「…ここ…ですかね?」
心咲が不安そうに呟いた。
「まぁ、通報者の情報には合致してるよな。…何の石碑なんだ?」
琢馬は生い茂る草を踏みつけるようにして、石碑の前の草をどかし、石碑に刻まれた文字を確認した。石碑には『九京村』と彫られていた。
「…きゅうきょうむら?きゅうけいむら?何て読むんだ?」
石碑の前で首を傾げている琢馬。心咲は、石碑の背後に回り、同じく踏みつけるようにして草をどかし、石碑の背面に彫られている文字を確認した。背面には『くけいむら』と平仮名が彫られていた。
「くけいむらって読むみたいですよ。」
「くけいむら…聞いたことないな。消滅した村か?」
心咲は鞄から地図を取り出し確認したが、九京村という文字は確認出来ず、気味の悪さを覚えた。二人は何も言わずに目を合わせた。
「…ど、どうします?」
「どうするって、課長の指示だし、ここまで来たんなら行くしかないだろ。…さっきの続きなんだっけ?」
琢馬が手を差し出すと、心咲が慌てて鞄から通報者の資料を取り出して渡した。
「…えっと…その道をずっと上がっていくと、集落に辿り着きます。村民には余計なことは話し掛けずに、赤い瓦屋根の家に行ってください。そこに男性の遺体があります。…そう言って向こうから電話を切った、か。」
「村民に話し掛けずにって…何か恐くないですか?」
「じいさんばあさんに余計なこと聞いても答えられないって意味だろ?とりあえず行くぞ。」
琢馬はそう言うと車に戻り始めた。心咲は石碑を一瞬不安そうな目で見つめると、慌てて琢馬を追い掛けた。琢馬は運転席に乗り込むと、フロントガラス越しに心咲に助手席に座るようにジェスチャーした。心咲は急いで助手席の扉を開いて乗り込んだ。
「いいんですか、運転?」
「こんな山道運転したことないだろ?」
「えぇ、まぁ。」
「…それに…。」
言葉を詰まらせた琢馬に、心咲は不安そうな視線を送った。
「…先輩?」
「…何か嫌な予感がして…。」
琢馬もまた不安そうな目で心咲を見つめた。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ!先輩、さっきみたく馬鹿にした感じで、ちゃちゃっと終わらせてください!」
「そ、そうだな。」
琢馬は深呼吸してから車のエンジンをつけ、石碑の横を通り過ぎて山道を上り始めた。
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