159人が本棚に入れています
本棚に追加
ガタガタと揺れながら進む車。まだ明るいはずなのに、どこか薄暗く感じる森。まるで森の奥に吸い込まれていくかのような感覚で、琢馬は慎重に運転を続けた。
「こんなとこに人家なんてあるんですかね?」
「まだ都市計画とか区画整理が始まる前の時代の名残だろ?今住んでる人らが居なくなればもう人家はなくなるよ。」
「なるほど。でもこれどこまで上ってくんでしょうね…。」
「…とりあえず走り続けるしかないな。あ、そうだ。念のため、課長か誰かに連絡しといてくれ。万が一のため…。」
「…万が一…、わ、わかりました。」
心咲は、琢馬の言葉を理解し鞄からスマホを取り出し、職場に電話を掛けた。
「…あれ?駄目だ。…圏外です。これじゃメールも送れないですよ。」
心咲の不安は更に増した。
「そうか。まぁ通報者の言うとおりに来れば辿り着けるんだ。大丈夫だろ。」
琢馬も不安と恐怖に駆られていたが、これ以上心咲を不安にさせないように取り繕った笑顔を見せた。
しばらく上ると、入口から見えていた先端のカーブに差し掛かり、道に沿ってゆっくりハンドルを切った。すると、視線の先には森が開けたような集落が現れた。パッと見て10棟ほどの人家が見えたが、どれも人が住んでいるような建物には見えず、二人の恐怖は頂点に達しようとしていた。
琢馬はとりあえずゆっくりと車を進め、道が開けたところで端に寄せて停車させると、二人は車から降りた。
「「空気が違う(な)…」」
同じことを同時に呟いたことに、二人は驚いた表情を浮かべて顔を見合わせた。心咲は顔を青くし、震えた声で話し出した。
「な、なんか空気が冷たいというか…。先輩、やっぱり帰りましょう、ここは何て言うか来てはいけない場所の様な…。」
「…あぁ。俺の嫌な予感が珍しく当たりそうだ。」
琢馬は車に乗るように心咲に指示をし、自分も運転席に乗り込むと、エンジンスタートのボタンを押した。
「…あれ?」
カチッ!カチッ!
「あれ?何でだ?」
「どうしたんですか?」
カチカチカチカチカチ… 琢馬はボタンを連打した。
「駄目だ。エンジンが掛からない…。」
「うっそ!そんな…普通こんなホラー映画みたいな展開あります?ちょっとすみません!」
心咲は慌てた様子で運転席に身を乗り出し、琢馬の手をどけて、エンジンスタートのボタンを強く押した。しかし、車のエンジンが掛かることはなかった。
「何で掛からないのよー!」
「…落ち着け、心咲。」
「落ち着いてられますか!こんな状況で!」
「騒いだってしょうがないだろ!だから俺は最初から…」
フロントガラスに視線を向けた琢馬が急に話を止め、目を丸くして固まった。その様子に心咲は何事かと思い、恐る恐る視線をフロントガラスに向けた。
「キャーッ!!」
数メートル先に複数の老人の姿が見え、心咲は思わず悲鳴を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!