3人が本棚に入れています
本棚に追加
1
曇りで、少しだけ落ち着く日。
だけどその日は、ちょっとだけ変わった日だった。
電気を付ける必要はないけど、眩しさに目を細める必要もないくらいには明るい空の下。
僕は小さくあくびをしてから身体を起こした。
床にはいくつもできた本の塔。その間に無理やり敷いた布団が少し揺れて、本の塔もほんの少し揺れる。
睡眠不足か、まだ開ききっていない乾いた目を擦って、すぐ傍に倒れてる二リットルの水ペットボトルを口に付けた。
ごく、ごく、と生温いそれを一気に飲み干して、やっと丸まっていた背を伸ばす。
それでもまだ、目は覚めない。
「ふあ……」
口から出るあくびと、やっと湿ってきた目を再び擦って、また眠ろうと身体を倒しかけたところだった。
いきなりスマホがけたたましく声を上げた。
電話のマークをスライドして耳に当てる。と、寝起きにはキツい、明るい声が鼓膜を震わせた。
「おはよ! ドア開けて」
「…………あ?」
聞き返した瞬間部屋に響くインターホンの音。またスマホから声が聞こえる。
「今君んちの前にいるの」
メリーさんみたいなことを、さも楽しそうに言う彼女。
はあ、とため息を吐けば、今度は、ドンドン、と玄関を叩き出す。
「起きてんならさ、開けてよ」
本当は開けたくなかった。だけど開けないと近所迷惑だとも思った。
「……ちょっと待ってて」
僕は結局、本で埋め尽くされた部屋に彼女を招き入れた。
最初のコメントを投稿しよう!