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 広げたWordソフト。だがそこには文章も何もなく、ただ白が広がっている。それだけなのに、彼女はまじまじと見つめていた。 「なんか書くの?」  黒いショートボブを軽く耳元で抑えながら言った。  僕はチラッと彼女を見てから答える。 「……レポート」  少し間を開けたのが悪かったか。「ああ、なるほどね」と、腑に落ちない声を出した。 「……何?」  聞き返すと、彼女は困ったように笑った。 「ああ、君なら小説の一つや二つ、書きそうだと思ったんだけどな」  観察眼鈍ったかなあ、と頭の後ろを書く彼女を前に、ごくっと生唾を飲んだ。 「…………こんな部屋だから?」 「それもあるかな」  言いつつ、パソコンから離れて部屋を見る。  壁を埋め尽くす、空きのない本棚。入りきらず床にまで作られた本の塔。文庫本、ハードカバー、漫画に雑誌。そこに紛れて、まっさらなコピー用紙の束もある。 「改めてみると、すごいね」  くるっと周りを見渡す彼女を、僕は見つめる。  上品なパンツスタイルだからか、この部屋では一層浮いて見えた。 「……まあ、唯一の趣味だし」  目を逸らして、埋もれ欠けているテーブルとその周辺を軽く片す。 「良いね」  言いつつ自分の座るスペースを作り上げた彼女は音もなく座った。 「……それより、なんで来たんだ?」  ようやく落ち着いて聞く。  いくら大学の友人だとはいえ、二人で会うような間柄ではなかったはずだが。  僕の質問に、彼女はニッコリと笑って返した。 「告白のためだよ」
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