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お湯を沸かしている間に、僕は仕方なく場所を用意する。
彼女は持参した自分のカップと、棚にしまわれていた僕のカップに粉を二杯ずつ入れた。
後ろからチラッと見る。
彼女は気にしていないが、男の一人暮らししているアパートに女性がいる、と言うのは、かなり落ち着かない。
結局一度ため息を吐いてから僕は言った。
「……飲んだら帰れよ」
彼女は一拍置いてから、アハハ! と楽し気に笑う。
「言われなくてもそうするよ」
その様子に拍子抜けする。サバサバしているところは、彼女らしいと言えばそうだな、と少しだけ笑った。
しばらくしてコーヒーの香りが漂ってきた。
普段あまり匂いなどかがない生活のせいか、少しキツイな、とこめかみを抑える。
彼女は匂いの元であるコーヒーを手にテーブルの傍に戻ってきた。
「はい、入れたよ」
差し出されたカップには黒い液体がなみなみと注がれている。
「……嬉しくないな」
僕の言葉に彼女は笑う。そのたびに揺れる短い髪が可愛らしい。
「……っていうか、なんでここに来るんだよ」
少なくとも、僕よりずっと彼女を好いている人間は山ほどいるだろうに。
片付けられたテーブルの前に座りながら、彼女は「気分が君に向いてたの」と言う。「それに……」と僕をちらっと見た。
「本読みながらコーヒーって最高じゃない?」
憧れなんだ、と顔を赤らめて言う彼女。僕はもう何度目かもわからないため息を吐いた。
「……飲めない奴に言うセリフじゃないね」
「ま、一回だけでも。一口飲んでみてよ」
元々僕は圧しに弱い。
彼女の言葉に促され、渋々コーヒーを口に運ぶ。ふわり、と鼻先をくすぐった匂いが、より濃くなる。
そのままゆっくりと口の中に流れてくる、黒い液体。
――ゴクッ。
「………………え?」
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