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 しぱしぱと瞬きすると、視界の端で彼女はニコニコと言った。 「言うほど苦くないでしょ」 「……苦く、ないけど…………」 「薄めに入れたんだ。それと少しだけ砂糖も――」  説明する彼女の声が遠い。  いや、そうじゃない。コーヒーの中に、たぶんこれは、なんだかまずいんじゃないかなって言う、ものがあったんだ。  だが言葉が出てこない。  口の中に残る、さらさらした粉のようなものが、ぐんっと僕の視界から光を奪っていく。 「……お前、何、入れた?」  絞り出した声は、かすれていた。だけど彼女は変わらずその整った顔で楽しそうに笑う。 「やだなあ。君、何言ってるの」 「……睡眠薬、だろ。これは」  僕は昔から不眠症だった。だから病院で、処方された睡眠薬をよく飲んでいたのだ。  もちろん、量は規定通りに。その味はもう覚えていた。  ――だけど、なんで。  口の中に残った、溶け切らなかったそれが、ざらざらしてる。  この量はおかしい、危険だ、と自分の中から叫びが聞こえてきそうだ。  ふと彼女が僕のすぐそばに来た。上から見下ろすようにして、笑う。 「言ったじゃん。告白しに来たんだって」 「……は?」 「好きな人って一度、殺してみたかったんだ。割と本気でね。でも君は冗談だろって笑ったよね」 「……な、そんなつもりじゃ」 「言い訳は要らない。興味ないから」  冷たい声だった。  だけど彼女は心底楽しそうに笑っていた。  そう言えばふと、彼女の持っていた黒いコートを思い出す。  そして、ああ、と笑った。  ――彼女は最初から…………。 「じゃあね」  僕の意識が途切れる瞬間、何か冷たく尖ったものが、僕の身体に突き刺さったようだった。
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