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「なにこれ、くそまずっ!」
玉子の柔らかい香りと、トマトケチャップの少し酸味を帯びたフルーティーな香りが家庭科室から漂っていたが、聞こえてくるのは罵詈雑言、平和な第三中学校にふさわしくない放送禁止用語の数々だった。
「お前のオムライスはまるでピーでピーでピーだ!」
「人のこととやかく言うまえに少しはましなもん作ってみなさいよ、あんたのオムライスはピーーーよ!」
実際は、ひまりはとても美味しいのをつくっていた。
「こんなの食えねー。まずい、たまごのとろみが足りない。」とつむぎ。しかし一方でつむぎ自身の作ったオムライスは、まるで油おかゆだった。油でべとべとのチキンライスに半熟にもなっていない生卵をかけた感じ。玉ねぎ人参は生焼け。
「ひまりちゃんすごーい!」
みんなは褒めそやす。でもひまりはつむぎにけなされ悔しかった。
「まずい、こんなの人に食べさせられないから俺がいただく。」
つむぎはひまり作のをぺろりとたいらげる。「かわりに俺様のをやるよ。」
ひまりは屈辱だと言ってつむぎのをたべた。
「どう?」
「スッゴクまずい。犬のえさにもならない。ここまで最低だと逆に才能を感じるわ。なにこの変質物?」
「一流シェフは玉子を半熟にするんだよ、知らないの?」
「これ、ほぼ生じゃん、卵かけ油飯って感じ。まずすぎる。」
「お前の舌が足りないの。これで、一流なの。」
どこがだ、とけなしつつも、ひまりは全部を飲み込み、水、水と、友達に助けを求めていた。
いつもこうなのだ。ひまりとつむぎの悪態のつきあいは、クラスでも日常茶飯事で、あー、またやってるよ、あの二人。となる。
ゴキブリとデカイ蜘蛛が領土争いをしているのをみるような生暖かい眼差しでみんなは二人を見守っていた。ひまりにつむぎ、両想いなのは見ていればすぐ察しがつく。それを邪魔しようなんて野暮な奴は一人もいなかった。
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