貴方の秘密が知りたい

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貴方の秘密が知りたい

莉子(リコ)が立っているのは学校の職員室。 もっとも叱られているわけではなく、単純に日直のため帰りのホームルーム前に必要物を受け取りにきていた。  それでも職員室は廊下との境目で全然世界が違うなと思う。 担任を前にすると、異空間に憩いの場ができたような気がした。 「じゃあ莉子さん、このノートを教室へ持っていって配っておいてね」 「はーい!」 クラスメイト全員のノートが両腕に乗ると、ずっしりとした重みで身体がよろめきそうになった。 ―――うわ、重ッ・・・。 担任に『大丈夫?』と聞かれたため愛想笑い混じりに『大丈夫』と答えたが、心の中は不安でいっぱいだった。 慎重に職員室を出て階段を上がっていく。  プルプルと震える腕の筋肉に暗示をかけながら階段まで歩く。 通っている学校なわけで位置は把握しているが、ノートが高く積まれ過ぎていて足元がよく見えない。 ―――これ、転んだりしないよね、って!? 横から確認しながら歩こうと考えたのが甘かったのだろう。 莉子は態勢を盛大に崩し、階段から転げ落ち尻餅をついた。 「いったぁぁー!!」 思わず大きな声で叫んでしまう。 ノートは見事に全て落としてしまった。 「いたたたたた・・・。 腰、腰打った・・・」 腰をさすりながら上体を起こす。 すると目の前に大きな影が差しかかり、そこにはクラスメイトの男子の蒼(アオ)が立っていた。  どこかへ行く途中なのだろうが、顔はこちらへ向けているため気付いていないはずがない。 ―――・・・あ、蒼くん。 ―――もしかして助けてくれるのかな? そう思い手を差し伸べてくれるのを待っていた。 もしかしたらここから恋が始まるのかもしれない。 そんな風に考えたのは昨晩21時に見たドラマの影響が強い。  ベタベタな出会いからベタベタな別れまでを進む近年まれに見る王道過ぎるドラマで、だからこそ久しぶりにハマってしまっているそれのワンシーンが頭に浮かぶ。  しかし蒼は目を合わすだけで何事もなかったかのように過ぎ去っていった。 現実はドラマとは違うものなのだ。 ―――えぇぇぇ!? ―――そこ、スルーする!? ―――いや、分かっていたけども! ―――助けてくれないんだろうなって分かっていたけど、あまりにも冷た過ぎない!? 蒼は背が高く容姿もそこそこいいクラスメイトで、普通にしていれば女子が気になる存在にもなるだろう。 だが彼はある特徴があった。 彼は一切言葉を発さないのだ。  誰も彼の声を聞いたことがないという。 そして人と関わりたくないのかとても不愛想で思いやりがない。 というのが莉子の評価で最大の欠点だった。 「莉子ー? って、そんなところでどうしたの!? 職員室から戻るのが遅いから見に来たよ!」 「あ、絵美ー!」 蒼のことを目で追っていると一番仲のいい絵美(エミ)が来てくれた。 「腰、腰打っちゃって・・・」 「本当に莉子はドジなんだから。 一緒に職員室、付いていけばよかったよ。 ほら、立てる?」 「うん・・・」 絵美に支えられながら立ち上がりノートを拾い集める。 二人で協力して教室へと運びノートを配った。 これからは帰りのホームルームだ。 莉子は席に着きながら蒼の後ろ姿をずっと眺めていた。 ―――蒼くんってどんな声をしているんだろう? ―――イケボかな? ―――それともまさか高い声だったりするギャップ!? いつの間にか帰りのホームルームは先生の話になっていた。 「えー、明日は大切な行事の日ってみんな分かっているわよね? じゃあ明日は何の行事があるのか指名したら答えてくれる? 今日の日付は13日だから、13番の蒼くん!」 日付で指名するのは日常的なことだが、先生は蒼の名を口にした途端“しまった”といった顔をする。 みんなは自然と蒼に注目していた。 「・・・」 やはり蒼は口を開かない。 生徒だけでなく目上の人にも口を開かないのだ。 だから何かあるに違いがなかった。 「あー、そうね。 じゃあ代わりに違う人に答えてもらおうかな」 いつもそうだった。 指名しても答えないため先生は蒼以外の生徒を差すようにしている。 ―――一体蒼くんは何なの? ―――不思議ボーイ過ぎる。 ―――みんなはおかしいって思わないのかな? ―――思っているのは私だけ? ―――でも私は、蒼くんの正体が気になるから! ここで莉子はある決断をした。 ―――よし、決めた! ―――解散になったら、蒼くんの後を付けて真相を確かめてやる! 先生の話が終わり解散となった。 早々に出ていく蒼の後を追おうとする。 その時絵美に声をかけられた。 「あれ、莉子ー?」 「あ、ごめん! 今日急用があるから一緒に帰れない!」 「えぇ!? 全く、本当に急なんだから。 また明日ねー!」 「うん! また明日ー!」 手を振りながら莉子も教室を後にして蒼の背中を追った。
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