うちに家族がいます

５

『ただいまぁ』ユウジくんの声です
「お帰り」聞こえなくても答えてしまいます
だいぶこの奇妙なルームシェアにも慣れてしまいました　ですが　この日ある変化に気づいてしまったのです　ユウジくんの制服が詰襟になってる　高校はブレザーなのに…
しばらくして帰ってきたナツキちゃん
「ただいまぁ　おなかすいたぁ」え？
なんとナツキちゃんも制服です　大学生だったはずなのに　コスプレ？家族の会話から　どうやらユウジくんは中学生　ナツキちゃんは高校生のようです　なんで？　突然の変化に驚き戸惑います　原因はわからないし　どうなってるのか不思議ではありますが　聞くことは出来ませんし　謎のまま　また月日はたってしまいます
数ヶ月たったころ　また驚かされます
「ただいまぁ」！！！
ユウジくんがランドセルで帰ってきました
ということは？　ナツキちゃんは部活帰りでジャージでした　若返ってる？　そういえば　お母さんもお父さんもなんとなく若い感じがします　さらに今年は誕生日とかイベントをしていません　なんだか　不安になってきます　どうしてかはわかりませんが　得体の知れない不安にかられます

しばらくはそんなに急激な変化はなく　少し安心しました　入社３年目になると　いろいろ任されることも多くなり　初めての“出張”をする事になりました　３泊４日ですが　なんとなく家族のことが気になります　しかし現実の家族でも　私の家族でもない彼らが気になるからと言って　出張を断ることは出来ません　仕事優先です

初めての出張は　上司や同期と連携してなかなかうまくこなすことができました
上司たちと別れると　足早に部屋に戻ります
「ただいまぁ」玄関の鍵を開け　一歩はいると　そこに見慣れないものが…ナツキちゃん？女の子がランドセルとワンピースで写っている写真と　保育園児の男の子を抱いたお母さんとスーツのお父さんそれにワンピースの女の子の家族写真です
これって…
『ユウジ　おやつ食べよ』
『アーイ』
その声にあわてて靴を脱ぎ　キッチンに急ぎます　ベランダのサッシに腰かけたお母さんとユウジくんであろう小さな男の子が美味しそうにボーロをわけっこして食べています　そんな…
『お母さんただいまぁ』玄関で声がします　聞き覚えはありますが　だいぶ可愛らしい声です
『なぁちゃんきたね』小さなユウジくんがうれしそうです
『そうね　お帰りなさいナツキ』玄関の脇からひょっこり顔をのぞかせた　小さなナツキちゃん　オレンジのランドセルをよいしょとおろします　やっぱり…　家を離れたら　その分家族の時間は早く巻き戻ってしまったようです　出張は楽しく充実した仕事ができて満足なのに　家族と過ごせなかった時間をなんだか悔やんでしまいます　ふとわれにかえります　私は何を考えているんだろう？この家族は何の現象かもわからないのに　何をこんなに深く思い入れているんだろう？もっといろいろ分かち合いたいとか変な考えまで浮かばせて　なに考えてるんだろう？自然に涙がこぼれてきました