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出張
「ただいまぁぁぁぁぁ」
今日も一日働いて帰宅してまいりました、安部結菜です。
忙しかったよぉ、疲れたよぉとこの疲れをいやしてくれるのは、みなさんご存じ広島弁の野村さん。のはずが……
「野村さんが出張なんて。うぅ、寂しい」
最近、帰宅したらすぐに野村さんと会ってたので、独り言言っちゃうくらい寂しい。
もう仕事終わったかな?声聞きたいな。とスマホを手に取り、私は重大なことに気づいた。
……ま・じ・か!野村さんの電話番号知らん!
考えてみれば、いつも直に隣のドアをノックし、毎朝、毎晩普通に一緒に過ごしてたら、電話必要なかった。合鍵の交換する前に電話番号交換するでしょ、普通っっ。なんで、今朝このことに気づかなかったんだ私。バカすぎる。
いいもん。いいもん。最近読んでなかったマンガ読むもん。
と、手に取ったマンガがなんで『憧れ上司と泊り出張♡クールな彼はケダモノでした』なんだっ。
『手違いで一部屋しか予約できてなくて、しかもダブルベッドの部屋しかありません。ええ!私たちどうなっちゃうのぉ。』
ダメダメダメ、どうにもならないで。
あぁ、読んでると野村さんとマンガのヒーローが重なってきちゃう。
優しく頭撫でるとか、ネクタイ緩める手がエロいとか、ちょいSっ気入るとか、これはもう野村さんをモデルにしたとしか思えない。いや、まさかそんなわけないのに読み進められない。変な妄想が止まらない。
だめだ。人をだめにすると噂のビーズクッションにもたれて、うなだれるしかない。
そばに放りっぱなしにしていたブランケットを抱えると、野村さんの匂いがした。
野村さんの存在を感じさせてくれるこんな小さなことで胸がキュンとしてしまうなんて、ほんのひと月前では考えられなかったのに。
「いつ帰ってくるかすら聞いてないよ」
野村さんが帰ってきたら、お帰りって言って、電話番号聞いて、部下とエロい事してないか聞かなくちゃ。それまで、このブランケットの匂いをかいで寝よう。
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