夢の中

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夢の中

 こんな夢を見てしまったのは、さっき手に取ったマンガ『憧れ上司と泊り出張♡クールな彼はケダモノでした』の所為である。  *** 『野村課長、私の手違いでこんなことになってしまって申し訳ありません。』  私は、フロントで借りた毛布を腕に抱え、ユニットバスの前の狭い廊下で必死に謝った。 『こうなってしまったことは仕方ありません。私はこれから今日の報告書をまとめますので、安部さんはシャワーでも浴びて寝てくださって結構ですから』  こんな時でも野村課長は優しくてクールだ。もともとこの出張も私が一人で来るはずだったのに、先方からの要請で急遽野村課長も同行してくださることになってしまったのだ。  そのバタバタの所為で、いや、私の単純な変更ミスで出張先のホテルは1部屋しか予約できていなかった。 『いえ、報告書は私が作ります』  償い以前の常識としてできる仕事はやらなくては、申し訳が立たない。 『そんな濡れた格好では風邪をひいてしまいます。先にシャワーを浴びて着替えてください』  なぜ私がびしょ濡れなのかはわからないが、髪はしっとりと濡れている。 『お言葉に甘えてお先に入らせていただきますが、報告書は私がやりますので野村さんはくつろいでいてくださいませ』  そう言って私はさっきコンビニで買ったビールを差し出した。せめてものお詫びだ。  ***  小さなユニットバスを出ると、野村さんはノートパソコンに向かってカタカタと指を滑らせている。真剣な横顔がかっこいい。きっとみんな言わないだけで社内の独身女性の六割は野村さんを狙っているに違いない。嘘、そんなにライバル多いと困る。二~三人くらいであってほしい。 『野村さん、お先にいただきました。続きはやりますので、お風呂入ってください』 『あぁ、ありがとう』  大きな鏡の前のデスクに広げられたパソコンに向かい、報告書の続きを書いていく。  野村さんの書いたところを読むと私とは文章力が違いすぎる。簡潔で分かりやすい。絶対ここから違う人が書いたってバレバレだけど、とにかく進めなければ。  そう頑張っていたはずなのに、いつの間にかウトウトと目を閉じてしまっていたらしい。  気づくとダブルベッドの中央に寝ころんでいた。そしてそんな私を見下ろす野村さん。 『野村さんすみません。まだ終わってないので続きをやります』  起き上がろうとする私の肩を野村さんはトンっと押して腰のあたりに跨った。 『もう終わりました。それよりも今日のお詫びをしてもらいましょうか。お仕置きですね、結菜』  野村さんは私の着ている安いビジネスホテルのペラペラの寝間着の上から、つつーっと指を這わせた。 『ほかの人と泊まってもこんな格好で寝るつもりでしたか?』  え?何。なんか、敬語の野村さんが新鮮すぎる。敬語萌えの素質あったのかな私。 『そんなに期待された目で見られるとお仕置きにならないんですけど』  そう言いながら、寝間着の上からやさしく胸を中央に寄せるように揺らされる。  ゆっくりとマッサージをするように脇から強弱をつけながら揉まれているとどんどんエッチな気分が高まってきた。  だけど、一番感じる頂には触れないまま、ただひたすらゆっくりと全体を掌で包み込まれる。  時折、指がふわっと頂に触れそうになるけれど、触ってくれない。 『っ……んんっんんっ』 『どうしたんですか?安部さん。お疲れの貴方にマッサージしてるだけですけど』  もじもじと膝を動かしても野村さんはびくともせず、縁を指で丁寧になぞっているだけだ。 『野村さん、キスしたい。キスしよう』 「ええで」  乾いた唇が私に触れるとすぐさま私の口内にたまっていた唾液を舌ごとすすられる。  同時に頂をピンっとはじかれると私の体が魚のように跳ねた。 「あっ……はぁんっ」  その刺激で瞬く間に私の脳内は覚醒した。夢のはずなのにめっちゃリアル。  薄く目を開けるとスーツ姿の野村さんが私を見下ろしていた。  野村さんは出張中だよね?あれ?ここは私の部屋?  これは、夢?現実? 「野村さん?」 「ただいま。寝とるときもエロいのぉ、安部さんは。どんな夢みようたん?ワシ以外の夢じゃなかろうのぉ」  野村さんは自身の唇の端を舐めるとネクタイに手をかけ引き抜いた。  ***安部さんが読んだマンガに影響されての夢設定なので、実際の野村の役職は課長ではないです。 ***
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