24人が本棚に入れています
本棚に追加
《乗客の皆様に申し上げます……アトランタ発、岬ヶ丘空港行き当便はあと15分ほどで到着いたします。どなた様もシートベルトを着用頂き……》
「機長、そろそろ目的地ですよ」
副機長が休憩用のシートで寛いでいた機長に声を掛ける。
「ん? ああ、そうか。だが『だから』と言ってどうという事もあるまい。現代は昔のようにパイロットの経験と勘で飛行機を操縦しているわけじゃないからな」
欠伸まじりな機長に着陸前の緊張感はない。だがそれもそうだろう。
「ははは……まぁそうですね。現代社会を支える『リクエストシステム』がある以上、『万が一』なんて起きようはずもないのですから」
副機長が同意した、その時だった。
ウィ……ン。
静かな音を立てて、コクピットのドアが開く。
「ん? 誰だ? CAは客室の方に詰めているはずだが」
だが副機長が振り返った先にいたのはCAではなく、一人の『乗客』であった。
「だ、誰だ! 貴様、どうやって入って来たんだ!」
副機長が叫んだ瞬間。
バシュッ! バシュッ!
さも当たり前のように、その乗客が手にしていた『拳銃』が発射される。そしてそのまま、機長と副機長はその場に崩れ落ちてしまった。
「あー……! やっと分かった! ここの『要求』がカブってたからフリーズしたんだ!」
ナツキは書き込みだらけになっているコピー用紙に赤い丸印をつけると、愛用のタブレットで問題のあったソースコードを書き換え始めた。
「やれやれ、これだから既製品のコードが使えない骨董品は困るんだよな。全部自分でメンテするしかないから……まったく、こんな大事な時に」
文句を呟きつつ、最後の入力を終える。
「よし! これで動くはず……と!」
電源ボタンを入れると、ブゥ……ンというモーター音とともに自身のパートナーとも言える大型ロボット『ロミオ』が起動した。
《ご機嫌よう、マスター。ご指示があればどうぞ》
ネットからダウンロードした推しアイドルの声は『推し』が自分専用の召使いになったようで気分がいい。
人形とは言えロボットだから外見は無骨で、触れても体温とてないが。
「そうね。とりあえずコーヒーメーカーに『アメリカン』を指示して頂戴。空港までカップに入れて持って行くから。それとテレビ点けてくれる?」
ナツキの『要求』を受け、ジュリエットがテレビにスイッチONの信号を送る。
「この時間なら何とかヒロキの到着便に間に合うかな? 空港はすぐそこだし、どうせ入国手続きに時間が掛かるだろうから」
すると。
《……つい先程入ってきたニュースです! アトランタ発岬ヶ丘空港行き666便が岬ヶ丘空港着陸寸前に連絡を絶ったそうです! 現場付近にいた漁船からは『大きな水柱が上がったのを目撃した』という証言もあり、墜落の可能性も含めて……》
画面ではアナウンサーが強張った表情で原稿を読み上げている。
「ひぇ……今どきの飛行機で『墜落』とかあるの? 信じ……いやまて!」
アトランタから地方空港である岬ヶ丘空港に来る飛行機は1日1便しかない。と、いう事は。
「666便て……ヒロキが乗ってる飛行機じゃん!」
最初のコメントを投稿しよう!