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「666便のその後の状況はどうなっている? まだ続報はないのか?」
思わぬ事故で大騒動になっている岬ヶ丘空港の事故調査対策本部に、空港長であるオサダの怒号が響く。
「空港長、たまたま付近にいた海上自衛隊の護衛艦から連絡が入りました。海面に666便のものと思われる残骸が多数、漂流しているそうです!」
情報が入るのはいいが、それでも凶報は嬉しいはずもない。
「やはり墜落か……信じられん! リクエストシステムがコントロールする現代の飛行機にそんな事が起きるだなんて!」
今から50年前。
極少化されたモジュールをブロックのように組み合わせてあらゆる制御システムに対応出来る技術が開発された。それが『リクエストシステム』である。
このシステムの利点は、極めて高い『確実性』にある。それぞれの要素部品が独自に情報をインプットし、リスクに対してスピーディーかつ柔軟に対応するからだ。
瞬く間に広がったこの仕組みは、今や全ての社会システムを構築するのに使われている。無論、飛行機とて例外ではない。
「海上自衛隊の潜水艦に依頼して、海底を探索出来ないか? 高い気密と頑丈なボディを持つ現代の飛行機なら、深度200メートル程度までは耐えられるはずだ」
オサダはそこに一縷の望みを見いだしたいようだが。
「それが……海自が言うには、あの辺りは大きく海底が落ち込んでいて、最深部は600メートルを超えるとか。深海潜水艇でもないと辿り着けないそうです」
「ダメか……」
落胆を顕にした、その時。
「空港長、IRSO(国際リクエストシステム機構)のスイス本部から連絡が」
部下がオサダに囁く。
「IRSOが? リクエストシステムの家元も黙ってはいられないという事か。それで、何と言ってきたのだ?」
「『リクエストシステムに対する重大な脅威』として事故調査対策委員会への参加と協力の申し出を。どうやら、裏で国際的なテロ組織が動いた形跡があるようです」
居間を兼ねた自宅のガレージで一人。事故の一報を目にしてから、ナツキはテレビを前にしたまま何もかもが手に付かなかった。夕ご飯を食べたのか食べていないのかすら覚えていない。
普段は放置されっぱなしで顔を見合わせても悪態を言い合うか喧嘩をする仲でしかないが、それでも流石に『死んだかも』と思うと気が気ではない。
テレビで繰り返し読み上げられる搭乗者名簿には『ニッタ ヒロキ』の名前がしっかり残されていた。
「ふぅ……もう朝の4時か」
時計に眼をやり、溜め息をつく。
「とりあえず少し休もう。頭が回んない」
椅子から立ち上がり、ベッドルームへ行こうとした時だった。
コンコン……。
誰かがガレージのドアをノックする。
「な、何!」
思わず身構える。こんな時間に来訪者が? するとドアの向こう側から低い声が。
「ナツキ……僕だよ、ヒロキだ。ここを開けてくれないか……」
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