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「で……で、でたあぁぁ!」
思わず腰が抜けて座り込む。
「こ、これ、アレでしょ? 『死んだ彼氏が霊になって恋人の所へやってくる』的な! こ、この前テレビの心霊特集でやってたんだから!」
ガタガタと震える先で、尚もドアは叩かれる。
「ナツキ! 僕だ、開けてくれ! 何しろ寒くて敵わないんだよ。知ってるだろ、僕が寒がりなのは!」
苛ついてはいるが、それでもハッキリとした声はあまり『幽霊』っぽくない。
「え……本当に? 生きてるの? ロミオ、玄関のカメラをモニターに映して!」
ロミオが映すモニターには、確かに『ヒロキ』の姿が。両肩を抱いてガタガタと震えている。
「……うん、だ、大丈夫。ど、どうやら『足』もあるみたい!」
慌てて玄関のロックを解除してドアを開ける。
「うそ……ホントに生きてた。ど、どうして……」
呆然と、ヒロキを見つめる。
「ありがとう、開けてくれて。いや、実際のところ僕もどうして生きているのか分からないんだ。とにかく、気がついたら漁船に助けて貰っててさ!」
部屋に上がりこんだヒロキが、抱き付こうとしたナツキをスルーしてストーブの前へ一目散に駆け寄った。
「あんたは……彼女の人肌よりストーブが恋しいってワケ?」
感動の再会かと思ったのにと、ナツキが頬を膨らませる。
「す、すまん! 何しろ寒くてさ」
照れ笑いを浮かべつうつ、ヒロキが手を温めていた。
「ところで、ナツキに頼みがあるんだ」
床に座り込んだまま、ヒロキが上目遣いでナツキを見上げる。
「僕がここにいるのを黙ってて欲しいんだ」
「……え? どういう事、それ」
「ナツキの爺ちゃんはリクエストシステムの開発メンバーだったから分かってもらえると思うけど、そもそもシステムが機能している飛行機に『墜落』なんてあり得ないんだ」
ナツキのパートナーである『ロミオ』もナツキの祖父が50年前に制作し、彼女のために残した遺品だ。
「実はリクエストシステムの元締めであるIRSOには組織的な脅迫が来ているという噂もある。もしこれがそうしたテロだとすれば墜落の『生き残り』であり、重要な証言者である僕を生かしてはおかないだろう」
「……だから私に『匿え』と? 普段は『忙しい』の一言で放置しっぱしで、今回も3ヶ月以上アメリカから帰ってこなかったクセに? こういう時だけ頼るわけ?」
「すまん、この通り!」
ヒロキが両手を合わせてナツキを拝む。
「……私はまだ生きてんだから、拝まれるには早いわよ」
腰に手を置いて、大きく溜息をつく。
「しゃーない、ほとぼりが冷めるまで置いてあげる」
「おお! ありがとう! 恩に着るよ!」
ヒロキは再び、ナツキを拝んだ。
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