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「……お前、何やってんの?」
ヒロキが黙々とタブレットに向き合うナツキの顔を覗き込む。
「ん? ああ……大した事じゃないの。何しろ『ロミオ』は古い機体だからリクエストシステムの公式アップデートが適用出来なくて……自分でどうにかしないとね」
「手間がいるなぁ。現行のシステムに入れ換えた方が早いんじゃないの?」
ヒロキは訝しがるが。
「爺ちゃんの『思い出』だしね。それに、ロミオ特有の機能もあるから。……で、何の用?」
「いやまぁ何と言うか」
ヒロキの照れ笑いは何かを『含んで』いる時だ。それはナツキもよく知っている。
「いや、匿って貰ってるから感謝はしてるけど、もう一週間近くなるだろう? 何と言うか……少し外の空気が吸いたいというかさ」
「……ドアを開ける、深呼吸をする、ドアを閉める。以上終わり」
ナツキがガレージ脇のドアを指差す。
「冷たいな、おい。何時からそんな冷たい女になったよ?」
ヒロキは頬を膨らませるが。
「冷たい? 『大事な彼女』を放置する人間には言われたくないねぇ。少しは自分の立場をわきまえたら?」
ナツキは知らん顔だ。
「なぁ、頼むよ。少しだけ気分転換がしたいんだ。今は夜中だから目立たないし、ドライブに行こうぜ。ほら、お前が僕に告白してくれた海辺の公園があるじゃん?」
「『あんたが私に告白した公園』ね。間違えないで」
ふぅと、ナツキがタブレットから顔を上げる。
「やっと終わった……これでどうにかなるわ、多分。で……? 行くの?」
ジロリと睨む。
「ありがとう! 早く行って、冷えないうちに戻ろうぜ!」
その頃。
666便の事故調査対策委員会では夜を徹しての作業が続けられていた。
「では、事故はその『ニュー・グローバル・アドミニストレーター』とか言う組織によるものと断定していいと?」
オサダ空港長が派遣されてきたIRSOの担当官に尋ねる。
「はい、その通りです。彼らは『自分達こそがリクエストシステムの上級管理者に相応しい』として権限の委譲を迫っています。今回の事故は彼らの『お前達では不十分だ』という意志表示かと。666便からの送信データによると犯行にもリクエストシステムが用いられた形跡があります」
「テロリストめが!」
オサダが吐き捨てる。
「リクエストシステムには『人間に危害を加えない』という『リクエストシステム三原則』があるはずなのに……どうにかして突破しやがったな!」
「ですが、そのメンバーが特定出来たのは収穫ですな。個人情報管理局も事件の重大さを理解してくれましたし。……で、『コイツ』が実行犯ですか」
憎々しげにオサダが差し出した書類には顔写真とともに『ニッタ ヒロキ』の名前が記されていた。
「コイツが彼女の家に隠れているのは間違いあるまい。何しろナツキとかいう女のクレジットカードによる食料品購入額が、事故直後から2倍になっているそうだからな」
「……では、私どもは一足先に『リコール』に向かいますので」
IRSOの担当官はそう言って退席した。
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