リクエスト

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「いやぁ、生き返る気分だな」 自動車(ヴィーグル)モードに変形したロミオの助手席で、ヒロキが大きく伸びをする。 「お前はホント、いい女だよ。感謝してる」 ああ、またしても『照れ笑い』なの? ナツキが冷めた眼付きでヒロキを横目に睨む。 「……お婆ちゃんが言ってたわ。『オトコっていう生き物は自分に都合がに惚れるんだ』って」 「ははは……辛辣だな、それは」 頭を掻いて苦笑いを浮かべる。 「じゃぁ、オンナはどうよ? オンナはどういうオトコに惚れるんだい?」 夜中という事もあるだろう。到着した海辺の公園に人影はなかった。 「そうね……」 岸壁に立ち、波を煽るべったりとした潮風を全身に受ける。冷たい、北の風。 「オンナは『自分を破滅させてくれるオトコ』に惚れるんだわ、きっと」 ヒロキの方を振り返る事もなく、そう返した。 「な……なんだよ、それ」 ヒロキはナツキの様子に何かを勘づいたようだ。 「馬鹿にしないでくれる? 私が何にも気付いてないとでも思った? …… あなたなんでしょ? 666便を墜落させたは」 「……っ!」 暫し言葉を失う二人の間に、貨物船の汽笛が通り過ぎていく。 「……何故、そう思うんだい?」 やっと口を開いたヒロキは否定をしなかった。 「当たり前でしょ? 現代の旅客機の客室は水深200メートルまでんだから。そんな深海から、どうやって生還したの?」 「いや、それは……僕が気が付いた時には漁船が……」 「それは嘘ね」 ナツキはキッパリと言いきった。 「事故があった直後から付近の海域には海上保安庁の捜索船が出て、漁船は立ち入り禁止になってたわ。私、ずっとテレビを見てたから知ってるの」 「……」 ヒロキは何も言い返さなかった。 「では、どうやって脱出したのか。……あんた、私の家にやって来てから一度も私をとしなかったじゃない。ずっと。それどころか『触れよう』ともしなかったよね」 それがもし事故のショックとかでないのだとしたら。 「それは、あんたの事を悟られたくなかったからなんじゃないの? つまり、今のあんたは全身が機械……リクエストシステムによるモジュールで構成されていると。それが3ヶ月間の出張の。だから深海からも生還出来た。……違う?」 ふと、ヒロキが今までナツキに見せた事のない冷たい笑みを浮かべた。 他人行儀な、或いは突き放したような。 「ははは……まいったな、まさかそこまで読まれてるとは。じゃぁもうひとつ聞こうか。何故ここに来たのか分かるかい?」 『寒がり』な筈のヒロキは強い北風に吹かれてなお、震える事もなく立っている。 「それは簡単。私の家に身を隠すにも限界はあるから、いつかは足取りを必要がある。……『恋人の死に悲観して自殺する』、私の死因として不思議はないわね」
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