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料理人をしていた父は仕事に行っており、母も幼い妹を連れて近所の店まで買い物に出ていました。
いつもなら表の店舗にいるはずの山中のおじさんも、店員の若い男性も、昼食に出ているのか見当たりません。
私は多分、昼寝をしていたのでしょう。
気がつくと家には1人きりで、でもそれを不安がってはいなかったと思います。
誰かが帰ってくるまで待っていようと、私は居間でテレビを見ながら留守番をしていました。
と、サッシ戸を叩く軽い音がします。
両親か山中のおじさん達なら、そんな事はせずにサッシ戸を開けて入ってくるはずです。
だとしたら自転車屋のお客さんか……。
そんな事をする必要はないのですが、なぜかその時は「お客さんに戸を開けてあげなくちゃ」と思ったんです。
居間と土間を隔てるガラス戸を開け、サンダルをつっかけて店舗の方へ出ていきました。
サッシ戸の外には、大きな人影がありました。
「お客さんですか? 今、誰もいないんですけど」
おっかなびっくり人影に向かって声をかけました。
私の声が聞こえないのか、人影は同じリズムでサッシ戸を叩き続けています。
「誰もいませんよー」
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