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気配り目配り心配り
「いっ、今っ、死体が動かなかったかね!?」
鑑識がやって来て勇二を取り囲む。
「いえ警部。確かに亡くなっております!」
「そうか。見間違いか?」
警部は首を捻りながら二人に向き直った。
「昨日君たちは今井さんと一緒にいたのかね?」
「はい、居酒屋のあとバーで11時くらいまで飲んで……あ、そういや俺、昨日のバーの金、勇二に立て替えてもらってたんだ」
それを聞いてブルーシートがごそごそと音を立てた。振り向くと腕がニュッと突きだしている。
「わりぃな」
要一が死後硬直している勇二の腕に3000円握らせると、腕はスッと引っ込んだ。
「さっきからなんなんだね!? 被害者は死んでおるんだぞ?」
警部は青い顔で叫んだ。
「勇二は金の貸し借りには厳しいんっすよ」
「いや、そういう問題ではなく、だね?」
「それより早く犯人を探してください。このままじゃ勇二も浮かばれません」
健人の言葉に警部は本題を切り出した。
「う、うむ。犯人は正面から心臓を一突きにしている。顔見知りの犯行だと思われるのだが、心当たりはないかね?」
「いや、勇二はいつも自分は二の次にして、人を立てるやつなんで、恨みなんてあり得ないです!」
「二股の挙げ句、捨てられたお前が真紀子を刺したってんなら分かるけどな。」
「健人お前、人の傷口えぐるのやめろよ!」
そう言いながら涙ぐむ要一に、ブルーシートからポケットティッシュが差し出された。
「ありがとな、勇二。見ろ健人! お前少しは勇二を見習え!」
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