気配り目配り心配り

1/1
前へ
/5ページ
次へ

気配り目配り心配り

「いっ、今っ、死体が動かなかったかね!?」 鑑識がやって来て勇二を取り囲む。 「いえ警部。確かに亡くなっております!」 「そうか。見間違いか?」 警部は首を捻りながら二人に向き直った。 「昨日君たちは今井さんと一緒にいたのかね?」 「はい、居酒屋のあとバーで11時くらいまで飲んで……あ、そういや俺、昨日のバーの金、勇二に立て替えてもらってたんだ」  それを聞いてブルーシートがごそごそと音を立てた。振り向くと腕がニュッと突きだしている。 「わりぃな」 要一が死後硬直している勇二の腕に3000円握らせると、腕はスッと引っ込んだ。 「さっきからなんなんだね!? 被害者は死んでおるんだぞ?」 警部は青い顔で叫んだ。 「勇二は金の貸し借りには厳しいんっすよ」 「いや、そういう問題ではなく、だね?」 「それより早く犯人を探してください。このままじゃ勇二も浮かばれません」 健人の言葉に警部は本題を切り出した。 「う、うむ。犯人は正面から心臓を一突きにしている。顔見知りの犯行だと思われるのだが、心当たりはないかね?」 「いや、勇二はいつも自分は二の次にして、人を立てるやつなんで、恨みなんてあり得ないです!」 「二股の挙げ句、捨てられたお前が真紀子を刺したってんなら分かるけどな。」 「健人お前、人の傷口えぐるのやめろよ!」 そう言いながら涙ぐむ要一に、ブルーシートからポケットティッシュが差し出された。 「ありがとな、勇二。見ろ健人! お前少しは勇二を見習え!」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加