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午後半休を取っておばあちゃんの家に行く。助手席にはお土産のショートケーキが乗っている。
おばあちゃんの家は山の中にある。ケーキの箱が助手席から転がり落ちないように、いくつものカーブを慎重に運転した。
おばあちゃんの家に到着すると、庭先で洗濯物がはためいていた。客用の布団も陽の光を浴びている。今夜太陽の匂いをたっぷりと吸い込んだ布団で寝られるかと思うと思わず口元が緩むが、もしかしたら一睡もできないかもしれないことを思い出して口元を引き締めた。
「おばあちゃん、来たよ」
引き戸を開けて声をかける。鍵がかかっていないのは私が来るからなのかいつもかけていないのかわからない。おばあちゃんから返事はない。私は念のため鍵をかけて上がり込んだ。
おばあちゃんは居間にいた。脚立に上って神棚の掃除をしていた。おばあちゃんの家の神棚は天井と鴨居の間に作りつけられた立派なもので、奥行がある。奥まで手を伸ばそうとおばあちゃんが体を傾けるのと同時に脚立がぐらりと揺れた。
「危ない!」
私は慌てて駆け寄る一瞬のうちにおばあちゃんを支えるべきか脚立を支えるべきか考えた。そんな私の逡巡などまったく関係なく、おばあちゃんは鴨居を掴んで自分で体勢を立て直した。
「あれぇ、晴香、もう来たの?」
おばあちゃんは私の顔を見て、何事もなかったかのように笑顔を見せた。
「もう、神棚の掃除くらい私がやるのに」
気の緩んだ私がそう言うと、おばあちゃんの口元から笑みが消えた。
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