最後の学校祭

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高校最後の学校祭。 その準備のため、かなり遅くまで作業してても誰にも注意されない。 一応、門限というものも存在しているのだが、その辺は両親も理解していて、大手を振って22時過ぎに、「ただいま!」と帰って来ても、ふつうに「お帰りなさい」と、出迎えてくれる。 おまけに、温かいご飯まで用意していてくれている。 「いつも帰り遅いけど、順調に進んでるのか?」 風呂上がりの親父が、冷蔵庫から缶ビールを取り出し僕の向かいに座った。 「今年は最後だから、ちょっと派手なことしようと思って……」 「え?何?」 妹の香織が僕の横にちょこんと座り、食べ掛けのサラダを口に頬張った。 「人の物食うなよ!」 「で、お兄ちゃんのクラスは何するの?」 「それは当日のお楽しみってやつだな」 「勿体ぶらないで教えてくれてもいいじゃない」 ほっぺをプクッと膨らませる。 「けち!そんなんじゃ誰からも告白なんてされないからね!」 捨て台詞のように言って、妹は自分の部屋へと戻って行った。 文化祭最終日、後夜祭の時、告白タイムと言うイベントが大々的に行われる。 しかも、女子から男子への告白だ。 そのやり方がちょっと変わっていて、告白したい男子に背を向け鏡を覗き込む。その時、男子が鏡に映っていればOK!映らなければ、ごめんなさいということだ。 文化祭当日、男子は朝から後夜祭の話題で盛り上がっている。後夜祭は最終日、3日後だ。にもかかわらず、初日からそわそわしている男子が大勢いる。 僕の隣の席の男子も、朝から鏡を見ながら、ああでもないこうでもないと、身だしなみを整えている。 それで告白されるなら良いのだが、そんな簡単なもんじゃないことを、僕は知ってる。 滞りなく文化祭は進み、いよいよ後夜祭当日になった。 『生徒はグラウンドに集合して下さい』 放送が掛かると、いよいよ男子達のそわそわがピークに達し、我先にと薄暗くなったグラウンドへ駆け出して行く。 その後ろ姿を何となく眺めながら、僕はゆっくりとついて行った。 グラウンドの中央に組まれた矢倉からは、大きな炎が上がっており、その周りを生徒が囲んでいる。 既に告白タイムは始まっており、女子生徒は皆お気に入りの鏡を胸の前に抱え、男子生徒に背を向けていた。ひとりの女子生徒が僕の前に来て、背を向ける。 「入学した時から好きでした。よろしくおねがいします」 ひとつ下のかわいい女子から告白されて嫌な訳ないじゃないか。 女子生徒は祈るように鏡を見詰めている。 その鏡の中に、一匹の蜥蜴が映し出された。 「やったー!」 女子生徒は飛び跳ねて喜んでいる。 「ありがとうございます」 彼女は僕の方へ振り向き、キラキラとした目で言った。 その時、大きな音とともに花火が上がった。 僕達の最後の大仕掛けだ。 みんなその場に座り、打ち上げ花火を見詰めている。 僕は彼女の手をそっと握り、大好物のコオロギをその手に渡した。
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