眠りの果てに見たものは

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 目を覚ますと、真っ白な天井が視界いっぱいに広がっていた。同じように白い壁が照明を反射する。俺はまぶしさに目を細めた。  ここはいったいどこだろう。よほど爆睡していたのかひどく喉が乾いている。 「意識の覚醒確認」 「!」  突然防護服を着た男たちが視界の中に割り込んできた。 「あんたたちは、何者なんだ?」  声がかすれて上手く言葉が出てこない。 「No.300520C08……成瀬(なるせ)ヒビキ。18歳男性。血液型Aプラス」  男たちは俺の質問を完全無視。防護服のせいで相手の顔はろくに見えない。 「マニュアルに従いワクチン接種を開始する」  男の一人が俺の腕を持ち上げ注射を打った。ガンタイプの注射器なんて初めて見た。トリガーを引くと、充填(じゅうてん)された青い薬品が俺の体に注入される。色のついた薬なんて気味が悪い。 「なんの注射を打ったんだ?」  倦怠感(けんたいかん)に襲われていた俺は、抵抗どころか逃げる気力さえなかった。  男たちは無言で部屋から出ていく。「おい」と呼び止めても誰も振り返らない。  一体どうなってるんだ?  体がだるい。自分の腕を持ち上げるのも億劫だ。 「こりゃ何だ?」  左手首にタトゥーが入っているのに気がついた。  300520C8――数字アルファベットの羅列(られつ)。防護服の男たちが読み上げた番号と同じだ。 「ヒビキってのが俺の名前なのか」  それとも数字のほうが呼び名なのか。どうにも頭の中に霧が立ち込めてはっきりしない。自分の素性も覚えていないし、この状況も理解できなかった。  だが、それらの疑問はしばらくの間頭の片隅に追いやるしかなくなった。  一時間後、俺は急な発熱と体の痛みにもがき苦しむことになったからだ。
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