第一話

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第一話

仕事で疲れた体を引きずって家路につく。今日も今日とて疲れた。その一言に尽きる。 「あれ…」 駅から徒歩10分、俺が住んでいるマンションは下が美容室になっていて、道路に面している。その3階、真ん中が俺の部屋だ。…電気が付いている。消し忘れたか。はあ、とため息をついた。 最近仕事ばかりで、自分のことは全て蔑ろだ。こういう所に顕著に現れているなと思った。有休消化で明日から5日間休みだというのに予定もないし、きっとだらだらと過ごしてしまうんだろう。ぼーっと、そんなことを考えながら階段を登るといい匂いがした。肉じゃがか。しばらく家庭の味に縁のない腹が、ぐうと鳴った。スーパーで適当に買った半額の惣菜がやけに重たく感じた。 自室の前に着き鍵を回すと、違和感を感じた。…開いている。しかも、肉じゃがの匂い。全く思考がついていかない。急いでドアを開けると、そこには狭いキッチンで鼻歌混じりに料理をしている男がいた。 「あ、望さんおかえりなさい。ご飯、もうすぐ出来ますよ」 おそらく大学生くらいの、可愛らしいタイプだった。思わず、ありがとうと言ってしまいそうになったが、そうじゃない。 「そ、その前に、君は誰…?」 「颯です」 「颯君…君はどうして、俺の部屋で料理作っているの?どういう状況?」 「あれっ、忘れちゃったんですか?」 颯君が差し出した一枚の紙。そこには、『理想の彼氏 体験コース5日間』とあった。 「短い間ですが、よろしくお願いします!」 これが、嵐のような5日間の始まりだった。
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