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 山並みが、急に近づいて来た。  龍が、ゆるやかに下降をはじめたのだ。  白久にも見慣れた光景になる。もうじき村のある谷間。  龍は、高い木々の間を巧みに縫い、久伊が住んでいた洞近くの沢にすべるように着地した。  草木が揺れ、沢水が沸き立った。  三狼が先に地面に下り立って、白久に手をかした。  白久は、龍を見上げた。  龍は、首をめぐらした。 (亜鳥のところに行ってあげて) (母さん)  龍の豊かなたてがみに顔をおしつける。 (母さんは、これでいいの。このままでいいの?)  龍は、そのゆるぎもしない深い紫色の瞳で白久を見つめた。 (昔は人間だった時のことが恋しくなったりもしたけれど、今はどうしようもないし、満足もしているわ) (……) (もうじきに、わたしの(たましい)は龍と同化してしまうでしょう。本当の龍として生きていけるでしょう)  龍は、空に向かって首を振り上げた。 「翔ぶつもりよ」  白久は、三狼に言った。  自分でも驚くほど、落ち着いた声だった。 「離れていた方がいいわ」  二人は、龍から遠ざかった。  龍のまわりで、風が巻き起こったようだった。木々がどよめき、木の葉や枝が乱れ飛んだ。  三狼とささえあいながら、白久は一直線に空に昇る龍の姿を見送った。  龍は、白久たちの頭上を一度ゆるやかに旋回し、雲間に遠く消え去った。 「行かなくちゃ」  母への訣別をすまし、白久は低くつぶやいた。 「そうだな」  三狼も、我にかえったようにうなずいた。 「きみの叔母さんを探すとしよう」  
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