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「わたしなら、だいじょうぶ」
亜鳥は、微笑んだ。
「あなたがいても、わたしは自分を保っていられると思うわ。心配しないで」
「それしか、方法はないのね」
「ええ」
「やってみる」
白久はうなずき、三狼に向き直った。
「あなたは、ここに残って、三狼さん」
何か言いかけた三狼をさえぎって、
「いっしょに来てって言ったり、ここにいてって言ったり、勝手なことばかりでごめんなさい。側にいてもらえるだけで心強かったの。でも、これ以上は危険だわ」
「わたしには、呪力なんてないからな」
三狼は、残念そうにため息をついた。
「きみたちに付いていくのは、無理らしい」
「いままで、本当にありがとう。嬉しかったわ」
「まだ別れるわけじゃない」
三狼は首を振り、きっぱりと言った。
「待っているよ。きみの身体を守ってる」
亜鳥は、白久に手を差し伸べてうなずいた。
白久は、亜鳥の手をとって、目を閉じた。
そのまま、霊を伸ばし、亜鳥のもとへ。
次の瞬間、白久は亜鳥の中で、脱け殻となった自分自身をささえていた。
(叔母さん?)
(わたしは、大丈夫よ、白久)
しっかりした亜鳥の思考が返ってきた。
亜鳥は、その身体をすっかり白久にあけわたしたが、彼女の霊は、一歩下がったところで白久を見守っていた。
白久は、ほっとした。亜鳥の霊を踏み荒らしたわけではないのだ。
「白久さん?」
三狼が、とまどったようにこちらを見つめている。
白久はうなずいて、自分の身体をその場に横たえた。
三狼が、荷物の中から小刀を出してくれた。白久は受け取り、いくらかぎこちなく立ち上がった。
いつもは見上げるようにしていた長身の三狼が、亜鳥の目線ではさほど大きく感じられなかった。白久は、おもわず微笑んだ。
「あとは、お願いね。三狼さん」
聞き慣れた亜鳥の声で言う。三狼は、うなずき、夷人の土笛を首からはずした。
「お守りだ」
三狼は、亜鳥の首に土笛を架けてくれた。白久は指先で、それをまさぐった。
「ありがとう」
白久は、亜鳥と自分自身とにつぶやいた。
(行くわ)
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