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   歩んで行くと、倒れたままりぴくりとも動かない人々の姿があった。死んでいるのか、気を失っているだけなのか。  かすかなうめき声が聞こえたので目を向けると、都津が両手で頭を抱え、うずくまっていた。側には、彼に手を差し伸べるようにして、由良がつっぷしている。  白久は、二人を助け起すこともできなかった。身体が重く、歩いているのがやっとなのだ。  耳にできない音は、ねっとりとした質量をもって、白久を押し潰そうとしていた。  亜鳥の呪力は、どこまで保つだろう。いや、その前に白久の意識がとぎれ、自分の身体に舞い戻ってしまうかも。  白久は、持っていた小刀を思わずとりおとした。 (しっかりして、白久)  亜鳥が、自分自身をも励ますかのようにささやいた。  白久はうなずき、小刀を握り直した。  突然、幻の龍が歯をむきだし、白久めがけて下降してきた。  悪意に燃える目は、白久を噛み砕き、引き裂き、ずたずたにしようとしている。  白久は一声叫び、顔を覆って両膝をついた。  龍は、次々と白久に襲いかかってきた。目の前が、闇にとざされ、息もできないほどになる。  手が、思わず三狼にもらった夷人の笛を握りしめた。  温かみのある手触り。あの少年が吹いてくれた、素朴な音色が耳によみがえった。  白久は何も考えず、唇を土笛にあてた。  初め出たのは、空気の音だけだった。しかし、何度目かに、飾り気のない深々とした音がほとばしった。  と、身体が急に楽になった。白久は立ち上がり、ぐいと顔を上げて幻をにらんだ。 「幻よ」  白久は、ようやく声に出した。 「幻にすぎない龍なんて」  
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