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白久はまばたきし、強ばった身体を動かした。
自分の内に、戻って来ている。
「白久さん」
三狼は気遣わしげにささやいた。
「だいじょうぶかい」
「ええ──」
白久は、はっとして身を起した。
「叔母さんは?」
亜鳥は、無事だろうか。
あの時、白久はただ夢中で弦を断ち切ったのだ。
凄まじい衝撃が、亜鳥の致命傷になるかもしれないとは考えずに。
自分の霊は、身体に戻って来たけれど、残された亜鳥はどうなってしまったのか。
「叔母さんのところに行くわ」
白久は、三狼とともに、村へ駆け下りた。
村は音を取り戻していた。
風の音、蝉の声、なんとか助かって、家の外に這い出るようにして出てきた者たちもいる。
亜鳥は、高床の階段の下に座り込んでいた。
顔も手足も血まみれだ。深い苦しげな呼吸をくりかえしている。
「叔母さん!」
駆けよった白久に、亜鳥はゆっくりと顔を上げて微笑んだ。
「よくやったわ、白久」
「ごめんなさい、わたし──」
白久は。亜鳥の前にうずくまって顔をおおった。
「叔母さんをこんな目にあわせたなんて」
「あなたが弦を切らなければ、二人とも死んでいたのよ」
亜鳥は、優しく白久の頭を撫でた。
「一門のみんなもね」
「傷の手当てをした方がいい。立てますか」
三狼が、亜鳥に手を差し伸べた。
「ありがとう、三狼さん。家に連れていって下さい。少し眠れば、治ると思うわ」
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