第六話 邂逅

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 教室を出て教師に見つかったり授業中の他のクラスの教室の前を通らないように気を付けながら迂回して、僕は非常階段に出られる校舎西側の非常口のドア前に居た。西側はこの時間帯使われることが殆どないためか、意外とすんなりここまで来れた。  少し重い非常口のドアを開ける。螺旋階段になっている非常階段を上っていく。  階段が外にあるため、振り込む雨でズボンが濡れる。上りながら、なんて自分は馬鹿なことをしているんだろう、でもさっき見たのは確かに、という噂を信じ切っていないながらも人影の正体を確かめようとしている自分を滑稽に思う。ただ、自分でも不思議に思うくらいこの目で確かめたいという気持ちがあった。  さっき見た五階あたりの高さまで来た。しかし、そこには誰もいなかった。何だ、さっきのは見間違いか、いやでもと思いつつ僕は上り続ける。  僕の高校は五階までしかないのだが、非常階段は、どうやら普段立ち入り禁止の屋上にも続いているようだ。僕も今非常階段を上って初めて知った。どうせここまで来たのだから、せっかくだし屋上まで行ってみようかなんて思って足を進める。  上り続けて、あとちょっとで一番上というところまで差し掛かった。さすがにこの高さの階段を一気に登るのは疲れて、少し息を切らしながら足を進める。目を足元に向けて、何かこんなことをしている自分が馬鹿らしくなった。ああ、こんな疲れるぐらいならおとなしく教室に居ればよかったなんて思う。  階段の最後のカーブを曲がって、やった着いたと顔を上に向ける。  非常階段の一番上。そこに、一人の女子生徒がこちらに背中を向けて立っていた。    肩に掛かるかぐらいまで伸びた髪。後ろから見てわかる制服を少し着崩しているであろう感じ。その後ろ姿に僕は見覚えがあった。階段の前と職員室で世界史教師の畠山と話していた女子生徒。あの子だ。  その女子生徒が僕に気付いたのか、振り返る。以前僕が見た涼しい瞳をこちらに向ける。  非常階段に居た。涼野美雪が、そこに居た。
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