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第八話 夢と劣等感
非常階段の踊り場から街を眺めていると、一時間目の終了を告げるチャイムが鳴って我に返った。結構な時間が経っていたんだなと思う。ここから教室までそこそこの距離があるから、二時間目に行くには少し急がなければならない。
速足で階段を降り、教室に向かう。幸い一階の非常口に入ってから教室の近くに行くまで教師や生徒とすれ違わなかったので、こんなところで何しているんだと怪しまれることもなかった。
教室に入ると、気付いた石田が話しかけてきた。
「おお、圭太。大丈夫か?」表情から僕を気遣ってくれているのが分かる。
「ありがとう。大丈夫だよ。」そう答えると、石田が僕の足元に目を向ける。
「何でズボン濡れてるんだ?」その言葉で自分の足元を確認すると、確かにうっすらとズボンが雨に打たれて濡れていた。やはりこういう時の石田の勘は少し鋭いなと思いつつ、非常階段に上って涼野美雪と会ったと石田に言うのは何だかためらわれたので、
「ああ、保健室じゃなくて外に出てちょっと空気吸ってたんだ。」とごまかした。
「ふーん。」ちょっと腑に落ちない顔をしたが、すぐに
「まあ、大丈夫そうならよかったよ。」と笑って言ってくれた。
「ありがとう、心配かけてすまないね。」そう残して僕は自分の席に向かった。
席に着くと、隣の席の天野冬子が声をかけてきた。
「東野君、大丈夫だったの?」心配そうに聞いてくる。
「うん、大丈夫だよ。」
「また気分悪くなったら遠慮せず言ってね。」どうやら本当に気にかけてくれていたらしい。
「ありがとう。でも、そんなに心配しないでも大丈夫だよ。」天野冬子って親切な人なんだなと思った。
すると、二時間目の現代文の女性教師が入ってきたため、慌てて教科書とノートを鞄から机の上に取り出した。
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