第十話 煙、雨に溶けて

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第十話 煙、雨に溶けて

 涼野美雪と非常階段で出会ってしばらくした月曜日。一週間の始まりを告げる目覚まし時計のアラームで目が覚める。それを止めて仰向けになって天井を見つめる。何となく体がだるさを覚えて、体を起こそうとしても素直にそうなってくれなかった。別に熱っぽいわけではない。ただ、気力が起きなかった。  五分か十分そうしていると、玄関のドアが開いて閉じる音がした。多分、父親が会社に出かけたのだろう。それを聞いて何とか体を起こし、一階へ降りる。  リビングでは母親が食卓に僕の朝食を並べてくれてるところだった。 「あら、今日はちょっと遅かったわね。」僕に気付いた母が言う。 「うん。」 「あんまり時間ないでしょ。早く食べちゃいな。」  その言葉に促されて僕は朝食を力なく食べ始めた。  ふとテレビの方を見ると朝のニュース番組が流れていて、画面の中のお天気キャスターが「来週には梅雨明けしそうです。」と朝早くから明るい笑顔をこちらに向けて言っていた。  梅雨が終わる。梅雨明けの夏の酷暑も毎年気が滅入るが、毎日暗い雰囲気が続く梅雨よりはましだな、なんて思う。そしてふと、雨の降る非常階段で、私みたいな人間が居てもいいのかも、と呟かれた涼野美雪の言葉が思い出された。
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