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第十二話 心と体、その矛盾
帰り道に天野冬子から非常階段でのことを聞かれた次の日、朝学校に行くと先に天野冬子が席についていた。「おはよう。」と彼女の方から挨拶されて僕も挨拶し返したが、その一言のやり取りだけでも言いようのない気まずさを感じ、それ以降会話が弾むことはなかった。
それからしばらくして、昨日学校を休んだ石田が教室に入ってきた。一目見るに、どうやら体調が悪いという感じではない。彼は自分の席に鞄を置くと、すぐに僕の方へやって来た。
「おはよう圭太。頼んでたコピー、とっといてくれた?」
「ああ、あるよ。」僕は彼のために用意していたコピーを鞄から取り出し、それを手渡す。
「悪いな、面倒なこと頼んじゃって。」
「それは全然大丈夫なんだけど、昨日はどうしたの?学校休んで。」
石田は「うーん。」と何か言いたくなさそうな素振りを見せた後、こう続けた。
「今日の放課後何か食べに行かね?コピーのお礼も兼ねて。俺おごるよ。」
昨日の連絡で僕に何かおごると言っていた彼の言葉を思い出す。
「そしたら、お言葉に甘えようかな。」
教室に担任が入ってくる。朝のHRの時間だ。
「じゃ、また後でな。」そう言い捨てて石田は自分の席に戻っていった。
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