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第十五話 叶わぬ願い
『君には話してもいいかもしれない。』
そう涼野美雪に言われた次の日、放課後になって非常階段へ向かったが、そこにはいつも僕よりも前に着いていた彼女の姿はなかった。心のどこかでそんな気もしていたが、どうしても後悔が込み上げる。彼女の過去なんて知りたいと思うんじゃなかった。
これまで何度も非常階段で会って色々な話をしてきたが、彼女の方から自分は転校生だと話してきたことはなかった。きっと、何か言いたくない事情があるのだろう。そんなことは少し考えればわかることだった。自分の浅はかさに腹が立つ。
踊り場からの見慣れた景色は清々しい夏の夕焼けに包まれていて、今日一日が終わって、街が夜の休息に向かっていることを告げていた。
ここから涼野美雪と街を眺めていたことが、何故だかひどく懐かしく感じた。
結局その日は、もしかしたら彼女が来るかもしれないと思いつつ二十分ほど踊り場で待ったが、彼女が姿を現すことはなかった。
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