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僕が自分の想いを言い終えると、再び静寂が二人の間に訪れる。
僕の想いは、彼女に届いたのだろうか。
「やっぱり、君は優しいね。」
突然、彼女は涙を流しながら笑って言った。
その顔からは、感情が読み取れない。
「家族と上手くいくようになって、私とは境遇が変わっても、私にそんな優しい言葉をかけてくれるのね。ありがとう。」
そう言うと目を伏せて、手で涙を拭う。口元には笑みを浮かべていた。
やった、僕の想いが届いた。そう思った瞬間だった。
「でもね、ごめんなさい。」
思わぬ言葉に、僕は硬直する。何か、とても嫌な予感がした。
「私が自分の過去を親族以外の人に話したのは、君が初めてだった。多分、それは君が私と似ていると思ったから。君が家族のことを信じられず、鬱屈しているのに共感できたから。多分、そう。でも、君はそれを乗り越えて再び家族からの愛を信じることができた。きっと、前とは形が違うでしょうけどね。だけど、そうしたら私と君を繋ぎ止めるものはなくなってしまう。それでも、君は私に優しくしてくれる。そのこと自体はとても嬉しいわ。だけどね……」
もう一度手で流れ続けている涙を拭って、彼女は続ける。
「きっと、君は私のことを理解してくれてる。私の周りに居る人の中で一番ね。でも、そんな君の言葉でも、どうしても信じ切ることができないの。」
声音はいつもの穏やかなトーンに戻ったが、彼女の両頬は涙で濡れている。
これまで見てきた彼女の表情の中で、一番人間らしい。
「最初はそれでも大丈夫。ゆっくり、ゆっくりと信じられるようになればいいじゃないか。」
どうにかして彼女を引き留めよう、その思いで言葉を発した。それでも、僕の中の嫌な予感はどんどんと大きくなっていく。
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