1人が本棚に入れています
本棚に追加
高校生となったとき、木下は心底安心した。遠い土地にある学校を受験し、合格し、寮に入ったからである。
しかし、沙流はどこから入手した情報なのか、頻繁に、頻繁に、それはもう頻繁に連絡を寄越したのである。住所も携帯番号も教えるはずがない。それなのになぜか知っている。
毎日毎日届く封筒。毎日毎時間入っているメールの通知。木下は気が狂いそうであった。
せめてもの助けであったのは直接会わないということ位であった。
大学進学とともに木下は更に沙流から距離を置こうとした。むしろ、縁を切りたかった。ただひたすら縁を切ろうとする木下とは真逆に、沙流はいかにして距離を縮めようか模索しているようであった。
そうこうしているうちに木下は大学を卒業し、就職した。
結局、彼は成人式にも里帰りすることはできなかった。
沙流がそっちにいる限り、自分は帰れない。木下は両親へそう伝えていた。
その事は両親から沙流の家族へと伝わっていたようであった。だから、彼らも沙流を出来る限り遠くへ行かせないようにしていた。実際、沙流は市外へは出なかった。
「どんなに遠くへ行っても、すぐに自分のところへ戻って来るに決まっている。だって、木下は自分の子分なんだから」
沙流はいつだって自信たっぷりにそう言ってのけた。しかし、その実、木下が何処で何をしているのか知りたくてたまらないのである。
いつ自分から離れて行ってしまうのか。いじめっこはいじめられっこに執着し、依存していた。
しかし、そんな関係にも転機が訪れた。
木下が社会人となり、実家を離れてアパートで一人暮らしをするようになって数年が経ったころ。
ある日突然、沙流からの一方通行であった便りがプツンと途絶えたのである。
嵐の前の静けさであった。
最初のコメントを投稿しよう!