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木下は懐かしい家族にただいまと挨拶をした。沙流という存在で台無しにされた生活がそこにはあった。
母親も、父親も、笑っておかえりと言って木下を受け入れた。そのことが、より幸せに感じられた。
木下は実家にいられる時間のほとんどを誰かと過ごした。家族と、友人と、あるいはわざわざ足を運んで頭を下げた沙流の両親たちと、木下はただひたすら言葉を交わし続けた。
そして、その中で沙流の両親はこう言った。何故ここまであの子が君に数着するのか、理由がわからない。
謝罪を受けた木下は彼らに言った。
「あなた方が悪いわけじゃない。自分は、止めなかった人たちや助けてくれなかった人たちを憎んでいない」
ただ
沙流だけは一生許さない。
木下は、休暇の最後の日に尋ねた。
沙流はどうしたのか。
ある日突然姿を消した沙流の行方を、誰も知らなかった。
もしかしたら、誰かから聞いてお前のところへ行くかもしれない。
絶対に来て欲しくないけどね。
父親と息子は帰りの駅のホームで話をした。
何かわかったら連絡する。また来てくれ。そう言って父親と親しかった友人は手を振った。
帰りの新幹線が発車した。
明日から、また働こう。しっかり生きて、また帰ってこよう。
これから、「日常」がやってくる。
そう思いながら木下は帰路についた。
アパートの部屋の前で誰かが屈み込んでいる。
「よう、木下」
沙流であった。
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