木曽馬君

2/8
前へ
/8ページ
次へ
   簡単に済ませやがる、将来ボクはサラブレッドになってグレードレースを制覇する馬になるんだぞ。  こんな警備員ごときが…これからを見ていろ!  しかし、ボクには気になることがある。木曽馬はポニーに分類され、小さい馬だという定義だ。  ボクがいくら小さいといっても、将来サラブレッドほどの馬格になるのだろうか?  それとなにより、木曽馬であるポニーと、サラブレッドは先祖が全く違うと聞いた。  これは、根本的な問題ではなかろうか。  そもそもが全く違う。  リアルに、トンビが鷹を生むなんてありえないし、やはりカエルの子はカエルなんじゃないか。  そういうことが思考に上るたびに、かなりな絶望感に見舞われる。  そして、その絶望感はいや増すように大きくなる。  そりゃ、木曽馬が…。  ―すいません教えてください、ボクはサラブレッドになれるのでしょうか?教えてください、ボクはサラブレッドになりたいんです。絶対に絶対に、ターフの上を駆け巡りたいんです―  ボクは自分の心配を否定してもらいたく、コロナ明けの制限された観客人数の中、手あたり次第観客に助けを求めるように詰め寄ったんだ。  ―ボクはサラブレッドになれますか―  まずは、よれよれのジャケットを着た中年男性に声を掛けた。  「ボクは見ての通りの木曽馬です。将来サラブレッドになる見込みはあるでしょうか?」  すると、その中年男性は怪訝そうな顔つきで答えたんだ。  「君、人間じゃないの?」  「いや、ボクは木曽馬です」  「木曽馬?」  「はい、こんな木曽馬でも、サラブレッドになりたいんです」  中年男性は、気味の悪いものでも見たような顔つきで、去ろうとするも気が咎めたのか、もう一度忠言する。  「でも、どっから見ても君は人間だよ」  このような質問を他の2人ぐらいにしたんだ。  答えは―君は馬じゃない人間だよ―
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加