木曽馬君

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   みんなお決まりの文句なので、ボクも訊ねるのに拍車がかかった。  それから幾人か(人数は気にしてなかったからね)に同じ質問をしたんだ。  すると、木曽馬の周りをみな気持ち悪そうに間合いを取り近づくことさえしなくなった。頭がおかしいんじゃないという声も聞こえる。  化粧をまともにせず、ぼさぼさの髪をした小太りの中年女性などは、木曽馬が少しでも近づくと、キャーと悲鳴を上げて逃げ去る。  この女性だけじゃない、みんな対処に困って、今にも逃げ出さんばかりの人でいっぱいになった。  携帯電話でどこかに通報しているように見受けられる人もいる。  このような観客の対応や、自らの夢が破れる素性に、なにかが食い違っているはず、ボクはサラブレッドになれるはずと思えば思うほど、いくらおとなしい木曽馬でも、焦って息巻いてくる。  そのまま、木曽馬はいきり立ち、とうとう居たたまれなくなった木曽馬は、競馬場から逃げ出そうとして、無関係の高齢女性を突き飛ばしてしまい、膝に傷を負わせてしまった。  そのとき、木曽馬はくずおれた。  そして、必死に駆けつけた警備員に取り押さえられたのだった。  木曽馬は警備員に取り押さえられたので抵抗を試みたが、首根っこを警備員の膝で押し付けられているうちに、呼吸が難しくなり、とうとう気を失ってしまった。          *  「木曽原さん、木曽原さん」  ボクの肩をわざわざ揺する奴がいる。  こっちは気持ちよく眠っていたというのに、うるさいなぁ。  強い眠気が先んじて、顔面の表情を歪ませる。  「木曽原さん、診察の時間ですよ」  あぁそうだったすっかり忘れていた。  木曽原は自分の失念に苦笑する。
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