12人が本棚に入れています
本棚に追加
「診察のお邪魔をしてはと、隣の部屋に控えておりました」とモヒカンをポマードで後ろへなでつけた男が、医師の横に椅子に腰かけた。
医師が早速、茶を淹れた紙コップを、3つ順に出す。
「わたしは刑事の橘というものです。少し訊きたいことがありますので、お時間頂戴してもよろしいでしょうか?」と身体を前のめりにする。重要事項のようだ。
「あなたは(木曽原さん)2カ月前の日曜日、長野県の開田高原にある木曽馬パークに旅行をしていらっしゃる」
木曽馬は刑事の顔を凝視しながら聞いている。
「そして、木曽馬の乗馬コーナーで乗馬の最中に木曽馬を操ってコースを離れて脱走しましたね。その時の木曽馬は未だ見つかっていないんですよ。そしてあなたにも失踪届が出されいるんですよ」
ここで、刑事はワンテンポ置き、さっき医師が淹れてくれた茶を啜ると、「あなたは見つかった、それは良い、実に良い、しかしその木曽馬が見つからなければ、あなたは窃盗罪で起訴されますよ。先方はかなり気が立っています。なんせ、絶滅危惧動物ですからね」
そこで刑事は洟を啜り茶も啜った。そしてカァーと痰も吐いた。
「このままでは容疑者、その次には被告人になりますよ。いいんですか、木曽原さん。女房子供を見捨てて…。先方の態度次第では示談も難しいかもしれないんですよ」
刑事がそこまで言うと、木曽原は目に涙をためて話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!