純夏の章-1

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純夏の章-1

いったん家に戻って、着替えて出かけよう…。 書架整理を終えた棚の前で、 大崎純夏(おおさきすみか)は額の汗を拭った。 今日は月に一度の休業日。だが、純夏たちスタッフ にとっては本の整理日にあたる日でもある。 純夏の勤め先である『柿崎文庫茶房』は 新しいタイプのブックカフェだ。 書店と図書館とカフェが融合した空間を持ち、 本の販売と閲覧スペース、そして食事も取れる カフェを備えている。 表向きは近代的なビルだが、中に入ると、 たくさんの緑と開放的な窓があり、手前に書籍 の販売スペース、中央にカフェ、そして奥に 閲覧スペースがある。 閲覧スペースは1日1,200円と有料にもかかわらず 日々多くの利用客で賑わっている。 靴を脱いで上がるこの空間では、 テーブルとイスの他に、ソファやクッション、 ハンモックや畳のスペースもあり、 販売している本を自由に閲覧することができる。  そして、雑談スペースやテレワーク、 仕事の合間の昼寝や打ち合わせなど、 様々な使い方が出来るとあって、予約しないと すんなり利用出来ないほどの盛況ぶりだ。 閲覧スペースを利用する客のほとんどが じっくり見た本に愛着が湧くのか、 購入に踏み切ることが多い。高額な本も他の書店より よく売れるとあって、在庫も多いため 図書館並みに定期的に書架整理を必要とする。 骨の折れる作業ではあるが、純夏はこの作業が 割と好きだったりする。 在庫を確認し、発注をかけ、分類して整えて…を 繰り返すうちに、どんどん夢中になる自分がいる。 本そのものが好きなんだな…と思う。 この後待ち合わせをしている 恋人の坂本拓磨(さかもとたくま)と 出会ったのもここだった。 2人を繋いでくれたのも本だったのかも…。 休業日の書架整理はいつもより終了時間も早い。 そして明日は休み、だ。 今夜は食事の後、2人で映画のレイトショーに 行く約束をしている。 映画は2番目に好き…これも拓磨と同じだ。 楽しみだな〜…。 純夏は軽く鼻歌を歌いながら帰り支度を始めた。
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