拓磨の章-6

1/1
前へ
/42ページ
次へ

拓磨の章-6

撮影が終わり、夜スタッフと軽く打ち上げを する頃には、留理は最初に出会った時の 物静かな女性に戻っていた。 あの気迫と怒号を上げたカメラマンと 目の前でゆっくりとグラスを傾ける女性とが 同一人物とは誰も思うまい。 共通点と言えば… 留理は何をしていても どこか艶っぽい雰囲気がある、という点だ。 それを色気というべきなのか、 妖艶と表現するのが適切なのか…。 「今日…びっくりなさったでしょう?」 ふいに留理に話しかけられた。 「え…あ、はい。まさかあんなことになるとは 思ってもみなくて」 「けっこういつものことなんですよ」 え…?ヌードのこと、とか? 「これからあの写真をお蔵入りにするか否か 事務所と坂本さんの会社とで話し合いに なるかと…」 なぜかおかしそうな表情で留理が言った。 「なるほど…清純派で売り出してるから…」 「出すべき、ですけどね」 留理はそう言って琥珀色の液体をぐいっと 飲み干した。 喉を通る液体の動きさえ、なんだかゾクゾクする。 俺、酔っ払ってるのかな…?? 留理は俺の顔をしばらく見てから ふふっと笑うと、 「良かったら…この後、 私の部屋で飲みませんか?」 本当なら、断るべきなのに 俺はそうしたくはなかった。 もっと…留理と話したい。 「いいんですか?」 「はい。是非」 ああ…ここだ。 留理には他の女子とは違う何かがある。 それは…ためらいのない潔さだ。 それは男のようでもあり、 それを女の留理がすることによって たまらないほどの色っぽさが出る。 俺だけなのか…? こんなに留理に惹かれるのは…。 なぜたろう…? 不思議なほど、純夏のことが この時は、頭に浮かばなかった…。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加