拓磨の章-10

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拓磨の章-10

「どうしてここまで…」 「君に…留理さんに会いたかったんだ」 困ったような微笑みのまま、留理は拓磨を見た。 「困った人ね、拓磨さんは…」 留理がその先を口にする前に たまらず拓磨は留理を引き寄せて抱き締めた。 「こんな気持ちは初めてなんだ」 「…後悔することになるわよ」  「…どうして?」 それには答えずに拓磨の腕の中で 留理はしばらく抱かれたままでいた。 「ホテル、決めてないんでしょう? …私の部屋に来る?」 「…いいのか?」 「ここまで来させちゃったのは私にも責任が あるし、それに…」 「それに?」 「ここはイスタンブール。せっかくだから 思い出を作りましょう」 2人はそのままキスを交わした。 もう言葉は必要なかった。 イスタンブールに滞在中、 昼間は留理の仕事に同行し、撮影を手伝った。 スタッフはまた拓磨が同行で来ていると思った ようで、何の違和感も感じていなかったようだ。 夜は郷土料理に舌鼓を打ち、 そして拓磨は何度も留理を抱いた。 留理の体は細くてしなやかで それでいて意外なほど胸は豊かで なめらかな鞭のように 拓磨に絡みついてくるような感覚があり、 狂いそうなほど気持ちが良かった。 体の相性がいいのだろうか? ただ、自分でも不思議だったのは 拓磨の中で、純夏と留理を比べることは 一度もなかった。 どちらも大事で、どちらも愛している、 そんなことなどあるわけがないのに…。 まったく正反対の2人なのに どうして留理に違和感を覚えないのだろう…? 留理の先に純夏がいる気がする。 その答えがわかる時が来ることなど この時の拓磨は知る由もなかった…。
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