留理の章-3

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留理の章-3

「今度の仕事は新栄社の写真集です、留理さん」 アシスタントのサトコが声をかけてきた。 私は最初は映画や写真撮影のプロダクションに 所属していたが、私を指名しての仕事が増えて きたので、独立して個人事務所を立ち上げた。 事務所は私とアシスタントのサトコ、マネージャー の橘(たちばな・男性)の3人だ。 「橘さん、お手柄なんですよ〜!あの佐倉リエの ファースト写真集なんですから」 佐倉リエ…ああ、あの子か。 今売れてるアイドルグループの センターを張ってる子だ。 関係者と一緒に行ったクラブに来てたっけ。 見た目より全然遊んでて、 なんかおもしろそうだったから ワンナイトラブした相手だ。 すぐにイっちゃって、 つまんなくなったけど(笑) 「いやいや、俺は何も。 留理さんご指名なんだよ、リエが。 なんか仕事したことありましたっけ?」 橘が不思議そうに手帳を確認している。 してない、してない。 遊んだだけ。 「ああ…この前の撮影クルーといった店で ちょっと会ったくらいかな」 「でもすごーい!新栄社だなんて大手の出版社 だし、ギャラ期待できそうですよね!」 サトコがはしゃいだ声をあげる。 「だといいんだけどね。あ、サトコ、 コーヒー入れてくれない?」 「あ、俺も」 「はあーい」 サトコがコーヒーを淹れに立ち上がるのを 見ながら、私は新栄社…と考えていた。 どこかで聞いたことがあるような…? …あ… 純夏の彼が勤めている会社だ。 え…っと…名前なんだっけ? 「拓磨、だ」 「たくま?誰ですか、それ」 コーヒーを運んできたサトコが不思議そうに 聞いてきた。 「ううん、なんでもない。コーヒーありがと」 ようやく名前を思い出した程度の存在だった。 当たり前か。会ったことないし。 まあ純夏を共有している点では同士、かな。 相手は知らないけどね(笑) 「なんか楽しそうですね、留理さん。」 橘が声をかけてきた。 撮影の時は数えきれないくらい 私にどやされてるから、機嫌のいい私に ホッとしているのかもしれない。 「そう?そうでもないけどね」 まあ、大きい会社だからさすがに一緒に 仕事することもないだろうし。 だいたい、名前は思い出したけど、苗字 知らないし(笑) 「ホントに楽しそうだね、留理さん…」 サトコにまで言われるほど 私はクスクスと笑いながら仕事をしていた…。
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