3人の章-1

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3人の章-1

留理…イスタンブールで仕事、 拓磨…有休を取ってどこかから成田… なぜだろう…純夏の頭の中は 留理と拓磨が一緒にいるところしか浮かばなかった。 私は拓磨に留理のことを話してはいないし、 留理は拓磨の存在を知ってはいても、会ったことは なかったはずだ。 そう何度考えても、純夏の職場である、 柿崎文庫茶房の写真集コーナーでの一番の売れ筋、 『フラワーシャワー』を見る度に その思いは強くなる一方だった。 そういえば… ドライブデートがダメになった理由は 拓磨に撮影同行の仕事が入ったから、だった。 同じ時期に留理が家に長崎のお土産を 持ってきてくれたのは、撮影で行ったと話してた…。 あの写真集は拓磨の会社が出している…。 純夏は自分の心臓が早鐘のように 鳴り始めているのを感じていた。 私が怖いと思っていることは… 拓磨と留理が恋愛関係になったのでは?…じゃない。 私と留理の関係を拓磨に知られたのではないか? このことだった。 留理が私とのことをペラペラ喋るわけがないのに、 私が一生話すまいと決めた秘密を 拓磨が知ってしまうのではないか…? もし知ってしまったとしたら、 私はどうするんだろう? 拓磨はどう思うんだろう? そして、留理は…?? 「純夏…?具合悪いの??顔色が…」 同僚の萌子が声をかけるほど、 純夏の顔色は真っ青だった。 「ごめん、萌子…。今日早退してもいいかな」 「わかった!大丈夫よ。後はやっておくから」 売場チーフに萌子が事情を説明してくれるのを 確認してから、純夏は家に戻ることにした。 拓磨にも留理にも連絡する気力がなかった。 ただただ、怖かったのだ…。 純夏が職場を後にする頃… 拓磨はデスクでぼんやりとしていた。 イスタンブールでの5日間が なんだか夢のようなそんな気がして、 頭の中は留理のことでいっぱいだった。 「5日も純夏ちゃんとランデブーか、この色男!」 突然背中を同期の剛にパチンと叩かれた。 拓磨は剛の「純夏」の言葉で 頭から水をかけられたような衝撃を 感じて飛び上がった。 「おいおい、大丈夫か??」 「び、びっくりさせるなよ、剛」 「なんだ、本当にランデブーだったのか? まったく裏山な話だぜ〜…って、ん?どうした?」 純夏…そうだ。純夏に何と話せばいいんだ? いや、話すのか?普通話さないだろう?? でも、このことを隠して これまでと同じように純夏を愛せるのか? じゃあ、純夏と別れて留理を選ぶのか? …だいたい留理は俺のことが好きなのか…?? 「すまん、剛。ちょっと出かけてくる!」 「出かけるって、どこに?!おい、拓磨!」 とりあえず純夏に会わなければ。 まず話すのは純夏だ。なぜかそう感じた。 今日は確か早番で店にいるはず。 拓磨は会社を飛び出した。 同じ頃… 留理は純夏の家に向かっていた。 打ち合わせは午後からだし、イスタンブールの お土産を母の美里に届けようと思ったからだ。 純夏の家が近づいてきたところで 留理は玄関の前に純夏がいるのに気がついた。 あれ…今日は仕事じゃなかったのかな? 「純夏〜」
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