3人の章-7

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3人の章-7

留理からの返信はなく、純夏に連絡しても LINEもメールも電話も繋がらない。 かと言って、純夏に直接会うのも気が引ける…。 もやもやした感情に押し潰されそうになった拓磨は 思い切って、留理の事務所に行くことにした。 留理の事務所が移転したことを 知らなかった拓磨は以前の事務所があった ビルに行ってしまった。 幸い、郵便物の転送関係で管理人が 移転先の住所を知っていたので、教えてもらう。 だが、新しい移転先の事務所を訪ねると そこに留理はいなかった。 「外出されているんですか?」 「あ…いえ…」 アシスタントのサトコの受け答えは なぜかとても歯切れが悪いものだった。 「あの…急用なんです、教えてもらえませんか?」 「少々…お待ちいただけますか?」 サトコは奥にいたマネージャーの橘に相談しに いったようだった。 しばらくして、サトコの代わりに橘がやってきて 気まずそうに言った。 「坂本さん、すみません。松本はここには いないんです」 「いない、ってどういうことでしょうか?」 「事務所はここなんですが、松本個人は拠点を 移してまして…」 「そうなんですか。ではそちらに伺いたいので 移転先を教えてもらえませんか?」 「大変申し訳ないのですが…」 橘は言い淀むように言葉を切った。 「坂本さんには移転先を教えないように、 と言われてまして…」 「えっ…」 「何かございましたら、おっしゃっていただければ こちらからお伝え致しますので」 「教えないように…と 松本さんが言ったんですか?」 「あの…御社との仕事で何かトラブルが あったんでしょうか?」 「いえ、そんなことは…」 「突然、拠点を変えると本人が言い出しまして、 この1週間ほどで半年分の仕事を片付けて 出発しているんですが、その際に 御社の仕事は今後は受けないようにしてくれ、と…」 1週間…ということは、 純夏の部屋で会ってから、留理はすぐ行動に 移したことになる。 こうすると、もう決めていたのか…? 「松本さんは…どちらに行かれたんですか?」 「すみません、それは…」 「教えて下さい!!お願いします!!!」 「……」 深々と頭を下げる拓磨を見て 橘は苦しそうに言った。 「坂本さん…松本は日本にはいないんです」 「え…?」 「アメリカです。」 「アメリカ…?」 「私からはここまでしか申し上げられません。 今日はお引き取り下さい」 「橘さん!!」 必死に声をかける拓磨の前で 事務所のドアは閉められた…。 留理が…俺と純夏の前からいなくなった。 …純夏はこのことを知っているのだろうか? とにかく、純夏のところに行こう。 拓磨は踵を返すと純夏の職場へ向かった。
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