3人の章-8

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3人の章-8

棚の本の背を軽く面揃えをしながら 純夏はぼんやりと考えていた。 考えていたのは拓磨のことではなく、留理だ。 おとといの夜、家に来た留理は いつもの留理で、いつものように母と話しながら 楽しそうに料理を手伝って、 3人であのかわいいお茶碗でご飯を食べて 夜は何度も抱かれて、何度も絶頂を迎えた。 拓磨のこと以外はいつもの夜だった。 やっぱり私は頭がおかしいのだと思う。 あっさり彼氏を捨ててセフレを選ぶ彼女なんか この世に存在などしないに違いない。 ベッドの中で留理の腕の中にいる時、 ふいに留理が口を開いた。 「拓磨さんと…ちゃんと話しなよ、純夏」 「え…」 「私がが言えた義理じゃないか」 留理は純夏の髪を撫でながら、ふふっと笑った。 「ねえ、留理…」 「ん?…」 「どうして拓磨と寝たの?」 「…私、拓磨さんと寝たって言ったっけ?」 「え…? あ…」 そういえば、そんな話は留理からは聞いていない。 「じゃあ拓磨さんはそんな話をしたの?」 「ううん、聞いてないよ…」 …拓磨もそう言ってはいない。 でもわかってしまったの。2人に何があったのかを。 「それも含めて話さなきゃ。ね?」 「留理は…いいの?拓磨のこと…」 留理は純夏を抱き寄せた。 「純夏がいれば、いいの。私は」 「留理…」 「純夏には幸せになってもらいたいから」 「うん…」 「拓磨さんといっぱい話して。それから一緒に いるか決めればいい」 「そうしてみる…」 翌朝… 純夏が起きたら留理の姿はなかった。 「朝早いからって帰ったわよ、留理ちゃん」 「そうなんだ」 「…あら?」 母が声を上げる。 「どうしたの?おかあさん」 「留理ちゃんのお茶碗がないわ」 「え…?昨日使ってたじゃん」 「そうよねえ…留理ちゃん持って行ったのかしら?」 まさか…なんで留理がお茶碗を持ってくのよ。 純夏は苦笑いしながらも、少し違和感を覚えた。 昨日の留理は…いつもと変わらないようだったけど どこか寂しそうに思えたのはなぜだろう? 「純夏、お客さん!」 萌子の声に純夏はハッと顔を上げた。 入口にいた萌子がニヤッと笑って指さす先には 息を切らした拓磨の姿が…。 「純夏…ごめん仕事中に」 「ううん、どうしたの?」 拓磨に会うのは久しぶりだった。 ちょっと…痩せたかも、拓磨。 「留理さん、どこに行ったかわかるか?」 「え?仕事でしょ?」 「違うよ、居場所のことだよ」 居場所?なんか変な言い方…? 「いなくなったんだ」 「え…?留理が?」 「拠点を移したそうだ。アメリカに」 「アメリカ?まさか…だっておとといもうちに 来てたのに…」 そんなのウソよ…と言いかけて、純夏は思い出した。 留理のお茶碗がなくなっていたことを…。 「事務所に行けばわかるんじゃないの?」 「…俺には行き先を教えるなと言われてるみたいで 教えてもらえなかった」 「そんな…。今LINEしてみるね!」 携帯を開けてLINEをしようとした純夏は 固まってしまった…。 「どうした?」 「留理のLINEアカウントが削除されてる…」 純夏は電話をかけてみたが、 携帯も解約されていた。 自宅の電話も使われていません、 とコールを繰り返すばかりだった。
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