3人の章-10

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3人の章-10

純夏と拓磨の前から留理が消えた。 留理はアメリカにいる、以外のことしかわからない。 留理の事務所に言づてをすれば伝わるのだろうが 純夏はそれをしないことにした。 留理は…私と拓磨のことを壊したくなかったのだ。 だから自分がいなくなる道を選んだ…。 その気持ちを思うと、留理に無理矢理何かを 伝えてどうなるのだろう…? 拓磨にはモヤモヤとした感情が残っていた。 留理がいなくなって、確かに寂しい気持ちは あるが、明らかに純夏に元気がなくなっている。 しかも、留理と浮気をしたことに気がついている はずの純夏は、どうして自分を 責めようとしないのだろう? …純夏のあの言葉がリフレインしてくる。 「留理は…あなたには渡さない」 あれはどういう意味だったんだ?渡さないって、 まるで彼氏を取り合う女同士のような… …まさか…??? ひとつの結論が拓磨の頭の中に浮かぶが、 あまりに突拍子もないその答えを 口にする勇気が拓磨は持てなかった。 それでも2人は別れずに過ごしていた。 デートをしたり、食事をしたりするのは 今まで通りだったが、ベッドを共にしなくなった。 お互いに留理のことを考えてはいても、 2人でいる時に留理のことを話すことはなかった。 …それも今まで通りなはずなのに、 どうしてこんなに寂しくなるのだろう…? こうして、表向きはいつもの日常が戻った状態で 月日は流れていった。 そして、留理がアメリカに立って ちょうど1年が経った頃… 「純夏、来月うちでサイン会をやることに なったみたいだよ」 朝の書棚整理をしていた純夏に 萌子が話しかけてきた。 「サイン会?誰の?」 「松本留理。写真家の。共談社から 大型の写真集が出るんだって。」 え…留理…?? その名前は純夏の体に 電流を流すような衝撃を与えた。 「予約が殺到しててさ〜!本人が久々に アメリカから帰国するから、余計に売れてる みたい」 留理が…帰ってくるんだ…!! 純夏の中にある思いが浮かんだ。 それは…いずれ拓磨に 話そうと思っていたことだった。 でも、ずっと迷って言えなかったことでもあった。 …話そう、拓磨に。今こそ。 純夏は携帯を取り出して拓磨にLINEをした。 『今夜、話したいことがあるの』 …すぐ既読になった。 『俺もあるんだ。帰りに純夏の店に行くよ』 『わかった。後でね』 なんとなく…拓磨が話したいことも同じだと 純夏は感じていた。 この一年の間に2人の間に流れていた思い… それはたぶん同じ思い。 きっと、他の人には理解してはもらえないだろう。 でも…きっと私たちはそれを選択する。 純夏はそんな気がしていた…。
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