それからの3人-1

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それからの3人-1

「留理ちゃん!いらっしゃい」 「美里さん、おはようございます」 留理は純夏の「実家」を訪れていた。 「これ、買ってきちゃいました」 「まあ、ロジェのクロワッサン!嬉しい〜! 留理ちゃん、朝ご飯は?」 「いえ。少し前に起きたばかりで…」 「純夏ったら、留理ちゃんの朝ご飯は 用意しないの?まったくも〜」 「私の時間帯が純夏とは合わないから 朝ご飯は遠慮してるんです」 「ホントに?留理ちゃん、うちに寝泊まりして くれていいのよ、何なら…」 「はい。ありがとうございます」 クロワッサンをオーブントースターで温めながら 留理は純夏の母、美里と並んでコーヒーを入れた。 最近は事務所に行く前のルーティンのように ちょくちょくここに寄っている。 「純夏、ちゃんとやってる?」 「はい。もちろん」 「2人共働いてるし、留理ちゃんがいろいろ フォローしてくれてるんでしょ?」 「いえ、そんなことは…。私が居候させて もらっているので」 「新婚家庭の居候は居心地悪くなあい?」 「まあ…若干…」 母と2人、笑い合う。 このひとときに癒される…。 思えば、純夏と拓磨から 提案されたこの案には少し驚いた。 それはちょうど半年前のこと…。 アメリカから帰国した留理は 純夏の働く「柿崎文庫茶房」で サイン会を行った。 サイン会の会場はいくつか候補があったが、 留理は迷わず純夏の職場を選択した。 事務所のスタッフたちも異存はないようだった。 元々、留理のの写真集が一番売れる 書店でもあったし、今回の写真集も 柿崎文庫茶房の予約はダントツだった。 サイン会は盛況で女性のお客さんが多かった。 「留理さん目当ての方ばかりでは?」と サトコに茶化されたが、 半分は当たっているかも(笑) 帰りがけ、神妙な面持ちの純夏に声をかけられた。 「留理…おかえり」 「純夏、久しぶりだね。…ただいま」 こんな時、多くを語らないのが私たちらしい。 「夜…時間取れるかな?話があるの」 「うん。事務所に帰って整理した後なら…」 純夏が指定してきたのは 留理の事務所に近い、和食の店だった。 静かな個室があって、 豚肉とレタスのしゃぶしゃぶが売りの店だ。 純夏と何度か来たことがあったな…。 店で待ち合わせをして、通された個室に入ると 拓磨も来ていた。 「留理さん…おかえりなさい」 「拓磨さん、ご無沙汰しています。 その節は失礼しました…」 拓磨からの連絡を無視し続けたことを詫び、 留理は2人の前に座った。 開口一番、純夏がこう言った。 「私たち…3人で住まない?」 「え…?どういうこと…??」 すると、拓磨も続くように言葉を添えた。 「俺も純夏も留理さんが必要なんだ」 「必要…?私のことが?」 2人からの説明はこうだった。 留理がアメリカに立ってから、 純夏と拓磨はお互いの気持ちを話し合った。  純夏は留理とのことを拓磨に話し、 拓磨も留理とのことを話した。 留理が2人の前からいなくなってから お互い留理を忘れられなかったこと、 そしてお互い共、留理を諦められないことも…。 「留理が嫌だと思うのなら、諦める」 「俺も同じだよ、留理さん」 「2人は…この先どうするの?」 拓磨と純夏はお互いの顔を見て にっこり笑ってこう答えた。 「結婚するつもりです」 「そこに留理を迎えたいの」 その答えを聞いて、私はその提案を 受け入れることにした。
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