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Chap.1 みんなのキャンプ
「ようこそ みんなのキャンプへ!」
車から降りると、不揃いな太い字でそう書かれた白い布が二本の木の間ではためいていた。ミンミンゼミが大合唱でお出迎えだ。暑い。竜はため息をついた。あーあ、着いてしまった。
「麗子さーん!久しぶり!」
ジーンズに、パッと目を引く黄色のTシャツを着て、太いえんじ色の縁のメガネをかけたショートカットのおばさんが、手を振りながら走ってきた。母さんとはしゃいで抱き合っている。久しぶりだって。竜はおかしくなった。牧野さんと母さんはしょっちゅう電話で長話している。確かに実際に会うのは年に一度このキャンプでだけだろうけど、あんなに頻繁に長電話していても、久しぶりっていうんだろうか。
「リョウくんも久しぶり!あらあ、背が伸びて!いいオトコになったわねえ」
「は、いえ…」
牧野さんは声が大きい。竜は「いいオトコ」なんて言われてどう反応したらいいかわからず困ってしまった。
「水泳、こないだの大会で優勝したんだって?すごいじゃない。おまけに成績トップで学級委員でしょ?こりゃあ女の子にモテて大変だ」
「変なこと言わないでよ」
笑いながら母さんが牧野さんをたしなめる。
「あらだってほんとよぉ。男前だし、スポーツマンだし、勉強もできるし。女の子はやっぱりそういうのに憧れるわよねえ。そろそろ彼女なんかできる頃じゃないのぉ」
「まだ小学生なんだから、そういうくだらないこと言わないでっ」
母さんはだんだん本気の顔になってくる。牧野さんは首をすくめた。
「ホイしまった。失言失言。ごめんねリョウくん」
「え、いえ…」
謝られて、また竜はなんと言ったらいいのかわからず困ってしまった。
「それでマコトちゃんは?やっぱりダメ?」
牧野さんの問いに母さんは苦い顔をして首を振った。
「ダメ。頑として譲らなかったわよ」
「そうかあ。残念!でも仕方ないわよ。本人が部活の合宿の方に行きたいっていうんだからさ」
「部活の合宿なんて!くだらない。どうせただのお遊びなのよ。このキャンプの方がずっと有意義に決まってるのに。あーあ、ちょっと前まではもっと親の言うことを聞く素直ないい子だったのに。がっかりだわよ」
「まあまあ、そう言わないで」
「最近なーんかよそよそしくなっちゃって、嫌な感じなのよ。変にすましちゃって、女の子っぽくなっちゃって」
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